いずれ到来する「医師が余る」時代。「足りないなら増やせばいい」と簡単に言えない、医師不足・偏在問題の実情とは? 厚労省も適正化に苦悩
ニッポンの2024年問題とは?#6
昨今、「医師不足」が叫ばれているが、これはコロナ禍でもよく聞かれた。たしかに世界を揺るがした未曾有の感染症の流行下においては、医師がいくらいても足りていないように思われただろう。しかし、実は平時においては「医師が足りていない」という考え方には、反対意見も多い。実際のところ、医師は足りているのか、いないのか、その実情に迫る。 【画像】厚生労働省による医師需給分科会の各回情報は、Webページにて資料等を確認できる
「不足」なのか、「偏在」なのか
結論から言うと、昨今叫ばれている「医師不足」への認識の差異は、その需要と供給をミクロで見るか、マクロで見るかの違いだ。シンプルだからこそ、難しい問題といえる。 まず前提として、今の日本においては、人口が減り続ける一方、医師は増え続けている。マクロで見れば、いずれ必ず医師の需給は均衡に達し、やがて医師が余る世の中がやってくることは自明だ。 しかし、ミクロで見た場合、たとえば地方では、あるいは産科や小児科といった診療科では、まだまだ医師の不足感が強い。つまり、「不足ではなく、偏在している」という考え方もできるのだ。 医師が不足しているのであれば、増やせばいい。しかし、増やした医師は減らせない。また、増やすことにもコスト(わかりやすいところでは税金)がかかる。 しかも、医学部は6年制だ。医師を増やそうとしても、実際に増えるのは6年後。逆に言えば、減らそうとしても、できるのは「増やすことを止める」ことだけで、直接的には減らせない。医師が減るのは基本的に自然減、つまり医師免許を持つ人の死亡だけなのだ。「足りないなら増やせばいい」と簡単に言えないことがわかるだろうか。 2015年12月からこの問題を長きにわたり議論している「医師需給分科会」という厚生労働省の検討会がある。その検討会が2022年2月に、「第5次中間とりまとめ」を発表。その中で示された同分科会の“考え方”が、ある意味では、この問題のすべてを表している。 ◯令和11年頃(筆者注:2029年)に需給が均衡し、その後も医師数は増加を続ける一方で、人口減少に伴い将来的には医師需要が減少局面になるため、医師の増加のペースについては見直しが必要である。 ◯中長期のマクロの医師需給の見通しに大きな変化はないと考えられるが、今般の新型コロナウイルス感染症の流行によって、一時的、局所的に医療提供体制が逼迫する事態が生じ、緊急時に柔軟に、また、機動的に対応できる医療提供体制(人材の確保も含む)の構築があわせて求められている。 (出典:医療需給分科会「第5次中間とりまとめ」より抜粋) 医師は現状足りていないかもしれないし、コロナ禍でたしかに不足感は強まった。一方で、数年後には少なくとも絶対数の面では需給が均衡し、それ以降余ると予測されているのだ。