戦争に翻弄された「87歳戦没者遺児」の知られざる歴史
三浦さんの物語を記すときが来た
2023年時点で17年間に及ぶ硫黄島の取材。その最初の一人が三浦さんだった。2006年に三浦さんの遺骨収集体験記を連載して以来、取材は短いものも含めれば数十回に及んだと思う。三浦さんは戦争遺児で、僕も10歳で父を失った遺児。少年時代に父を失った悲しみを抱いて生きた者同士の、年の差を超えた絆のような縁を、僕は感じていた。 チェーホフ、暗号「ウ27ウ451」、日本最後の空襲、共産主義国家での暮らし……。戦争に翻弄された三浦さんのライフ・ヒストリーは、ノートを読み返さなくても、はっきりと思い出すことができる。 長年、硫黄島報道を応援してくれた三浦さんへのせめてもの恩返しとして、いつか三浦さんの半生記を製本して本人に贈り、驚かせようと僕は考えていた。しかし、怠惰な僕が手をつけないうちに、三浦さんは天国に旅立ってしまった。 戦争で父だけでなく故郷も奪われ、父の慰霊も里帰りも自由にできなかった三浦さんの生涯は「戦争は終わっても、戦禍は終わらない」という真実を伝える物語だ。本人に読んでもらう夢はもう永遠に叶わなくなってしまったが、社会の人々に伝える意義はあるのではないか。控えめな人柄で目立つことを避けがちだった三浦さんも、天国で同じように考えてくれているのではないか。そう信じて今こそ、記そう。三浦さんの物語を。
酒井 聡平(北海道新聞記者)