テレ東・田中瞳アナ「一人で飲んでたら驚きの事態に遭遇!」その後、行きつけになった居酒屋での“ある出来事”とは
テレビ東京アナウンサー・田中瞳の初のエッセイコーナー「瞳のまにまに」。 今回のエッセイは田中アナの“癒し処”となっている行きつけの居酒屋についてです。 【前回はこちら】テレ東田中瞳アナ「インパクトを残して帰る人たちが心底羨ましくて、恨めしかった」苦悩のとき転機となった“ある研修”とは?
さようなら、リサーチおばけ
数年前までは飲食店「新規開拓派」でした。 暇さえあれば、様々なジャンルのお店を調べて良さげなところを保存。たとえば中華が食べたいと言われたら5つほどの候補をすぐ提案できるような、膨大な店名リストを持っていました。また折に触れて、リストにある行ってみたい店を新規訪問。行ってみて良ければ、リストの精度も上がっていきます。 お店を決める際は、かなり効率的に決めたいタイプだったのです。 スピーディーに手札を差し出して選んでもらう。迷い悩む時間をできるだけ減らす。それが皆にとってハッピーじゃないか!――と信じてやまず、最初は楽しんでいたのですが……。なんだか心も親指も疲れてしまいました。途中から何かに取り憑かれたように躍起になっていた自分がいたように思います。
今の私はというと、飲食店「完全定着派」でございます。
お恥ずかしながら、数年かけて作り上げたリストは本で言う「積読」化してしまいました。しかも血眼になって作成したリストのどこにも含まれていない数店舗で定着したのですから、なんだか笑えます。 どうしてあの頃はああもリサーチに必死になれたのか……当時の自分に会えたなら背中をポンと叩き「まあ落ち着こうや」と言ってやりたいです。 というわけで、ここ1、2年ほどで完全に定着したお店が片手に収まるくらいあるのですが、中でも最も頻繁に訪れるあの店に思いを馳せてみます。 基本的に1人で飲みに行くのが好きなので、いつもお店のカウンターへ。覚えているのは、1人で訪れた3度目の夜です。もうこの時にはお店の方が「1人で来る若い人」として認識してくれていたと思いますが、私としてはまだ多少の緊張感もありました。 ちびちびと飲んでいたら、私の隣に常連と思しき女性のお客さんが1組やって来ました。すると彼女たちに店員のお姉さんがコソっとひとこと。「兄貴ね、今日誕生日なんですよ」。兄貴とは、この店の大将です。あらおめでたいと心の中で思っていると、まさか、まさかの、「えー!なんで今日なの~えらい日に来ちゃったわあ」「別に何もないからね~」と女性たちからつれない返事が。お祝いの言葉を想像していた私は一瞬驚いてしまいました。さらに後に来た別の常連客も全く同じリアクションなのです。 ただ、そんな素っ気ない常連客に対し、店員さん、そして兄貴自身もニンマリ嬉しそうな笑みを浮かべながら言い返す様子を見て、「ああこれが此処の温度感なのだ」とすぐに理解することができました。しばらくすると、その常連さんたちは「仕方ないから一番いいやつ頼もうかな」などと言いながら注文をし、気がつけば私も仲間に入って盃を交わしていたのでした。 それからというものの、このお店に何度お世話になっていることでしょう。 数席のカウンターで今日の珍事や明日の不安事を話したり、黙々と食事を楽しんだり……。気持ちのいい温度感の店員さんたちがいる店で過ごす時間は私の心の癒しです。だから疲れているときこそ、ついつい寄ってしまう。 スマホで飲食店をどんなに調べ尽くしたって、知り得ないことがあるのですね。 この場をお借りして、いつも丁寧なお料理と温かい接客をありがとうございます。
【Profile】田中瞳
たなか・ひとみ/1996年9月16日生まれの28歳。東京都出身。2019年、成城大学を卒業後、テレビ東京入社。現在の担当番組は、『WBS』(月・火・金曜)、『モヤモヤさまぁ~ず2』など。
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