ファーストサマーウイカ”ききょう”が「源氏物語」を“暗い”と評したワケ。NHK大河ドラマ『光る君へ』第38話考察
吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。「源氏物語」を読んだききょうがまひろを訪れる。一方、宮内では一条天皇と中宮彰子が呪詛されたと問題に…。今回は、第38話の物語を振り返るレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】吉高由里子の十二単姿が美しい…貴重な未公開写真はこちら。NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧
ききょうから「源氏物語」への賛辞と嫌味
まひろ(吉高由里子)の書いた物語が一条天皇(塩野瑛久)の心を捉えていることを知ったききょう(ファーストサマーウイカ)。『光る君へ』第38回では、自身も「光る君」の物語に目を通したききょうがまひろに感想を届けにくる。 2人が顔を合わせるのは、定子(高畑充希)が亡くなったとき以来。まひろは純粋に再会を喜ぶが、ききょうは同じ心持ちではなかった。 ききょうは開口一番、まひろの物語について「引き込まれました!」「漢籍の知識の深さ、この世の出来事を物語に移し替える巧みさ。どれもお見事でございますわ」とべた褒め。 一方で、「まひろさまは誠に根がお暗い」「困った男を物語の主になさって男のうつけぶりを笑いのめすところなぞ、誠にまひろさまらしくて」という言葉には若干の棘を感じる。 というのも、以前まひろはききょうが書いた「枕草子」に「私は皇后さまの影の部分も知りたい」とある種のケチをつけたから。心から慕っていた定子の華やかな部分だけを残そうとしたききょうと、光る君を中心とした貴族たちの人間味あふれる姿を描いているまひろ。 そんなまひろの作風をききょうが“暗い”と表現するのは最大限の褒め言葉でもあり、嫌味でもあるのだろう。プライドが高いので必死に隠してはいるが、自分とは正反対の作風で認められたまひろへの嫉妬が滲み出ていた。 ただ、ききょうが一番怒っているのは、まひろが一条天皇の心を上塗りしたことにある。そもそも聡明であるがゆえに周りと合わないききょうにとって、自分と同じ目線で文学について語り合えるまひろは同志のような存在で、友情も感じていたのだろう。 だからこそ心を許し、かねてより定子への熱い思いを打ち明けていたが、それを知った上でまひろが今まで一条天皇や人々から定子に向けられていた関心を奪ったことに対して、ききょうは裏切られたと感じているのだ。「わたしは腹を立てておりますのよ、まひろ様に。源氏物語を恨んでおりますの」と声を荒げるききょうは今にも泣きそうで、思わず胸が苦しくなった。 尊敬、嫉妬、憎しみ、悲しみ…ドラマが始まってたった5分の間にさまざまな色を見せるファーストサマーウイカの演技に引き込まれる。