「東九州新幹線」は結局実現するのか? TSMC進出で変わる九州の産業構造、3つのルートが示す地域経済発展のカギとは
新八代ルート懸念の声
ただ、宮崎県が提唱した新八代ルートに対しては、懐疑的な見方が強い。例えば、県北の中心都市である延岡市では、新八代ルートの推進が日豊本線ルートや久大本線ルートの実現を停滞させるのではないかと懸念する声が上がっている。 『宮崎日日新聞』2023年12月8日付の朝刊には、延岡市の読谷山市長が 「あぶ蜂取らずになるのが県にとって損失。大分と連携する意味でも東九州新幹線に全力を注ぐべきだ」 とコメントしたことが報じられている。新八代ルートは、取り残される地域を生み出さないために魅力的だが、日豊本線ルートや久大本線ルートの実現と 「セット」 でなければ、その意義は薄れるだろう。いずれにしても、これまで夢物語にすぎなかった東九州新幹線の実現に向けて、各地域での動きが活発になっている。目的が 「九州内の移動の向上」 に置かれている点は評価できる。 しかし、新八代ルートが通過予定の熊本県南部では、構想に対する反応が複雑だ。人口減少が著しいこの地域では、新幹線誘致が経済活性化の起爆剤になるとの期待がある一方で、2020年7月の豪雨で被災した 「肥薩線の復旧を優先すべきだ」 という意見も根強い。また、これまでの新幹線計画と同様に、都市間で経済効果の奪い合いや人口流出が懸念されている。
問われる50年後の価値
このように、東九州新幹線構想は地域の期待と現実的な課題の間で揺れ動いているのが現状だ。それでも、今実現するには絶好の機会が訪れていることは確かだ。これまでも多くの報道で触れられているように、日本全体が低迷しているなか、九州だけは異なる動きを見せている。 福岡市は、アジアの玄関口としての機能を強化する都市開発を進めている。熊本市も、TSMCの進出を契機に福岡市に次ぐ都市を目指して、交通インフラの整備や都市機能の充実に取り組んでいる。さらに、西九州新幹線の開業によって長崎市の再開発も加速している。 九州全体を見渡すと、これまでの東京や大阪に依存した動きから脱却し、 「アジアを見据えた国際的な動き」 が本格化している。いわば、九州の発展は日本経済が低迷や衰退から脱却する起爆剤となりつつあると筆者は考えている。 果たして50年後、100年後を見据えて多大な事業費を投じる価値があるのか。さらなる議論が求められている。
昼間たかし(ルポライター)