「東九州新幹線」は結局実現するのか? TSMC進出で変わる九州の産業構造、3つのルートが示す地域経済発展のカギとは
九州内移動、時間短縮の波
注目すべき点は、九州内の移動時間が大幅に短縮されることだ。従来の日豊本線ルートでは、新大阪へのアクセスが格段に早くなる。一方で、日豊本線ルートが新大阪へのアクセスには優れているが、九州内の移動では久大本線ルートの方が有利だ。 この新たなルート提案は、九州の経済発展や地域間連携の強化を目指す新しい戦略の一環と見なせる。つまり、この案は半導体産業の集積などを考慮し、九州内での産業発展を促進し、人や物の流れを活性化させることを目指している。 大分県の新しい提案に対し、宮崎県は新八代ルートを示した。久大本線ルートは1973年以来の計画に基づいているが、新八代ルートはこれまでの整備新幹線計画には存在しないまったく新しいルートだ。しかし、突拍子もない提案ではない。 新八代駅と宮崎市の間には、現在JR九州の高速バス「B&Sみやざき」が運行されている。この路線は新八代駅で新幹線と高速バスの乗り換えを想定したもので、宮崎市から博多駅までは最速3時間11分で、宮崎県南部から福岡市へ向かう最短ルートとなっている。 2023年度の利用者数は約19万人で、需要も多い。筆者(昼間たかし、ルポライター)も人吉市(熊本県)から八代方面に向かう際に利用したことがあるが、どの時間帯もほぼ満席で運行されており、驚いた経験がある。
TSMC効果と南北格差
この路線は熊本県南部の経済活性化の起爆剤として期待されている。『宮崎日日新聞』2024年4月1日付の朝刊では、このルートが期待される理由が次のように説明されている。 「一方で南部地域の経済浮揚の起爆剤として新幹線に期待する向きもある。半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場進出など「半導体バブル」に沸くのは熊本県北部にとどまり、経済効果を享受できない八代や人吉市など南部との「南北格差」が広がりつつある」 九州各地ではTSMC進出による経済活性化が進んでいるが、県南部の八代エリアはその恩恵をあまり受けていない。現在、港湾や新しい工業団地の開発を進めることで巻き返しを図っている最中だ。 同じく県南部の人吉市周辺もTSMCの進出効果からは遠く離れた地域である。地域を結ぶ肥薩線(八代駅~隼人駅)は、2020年7月の豪雨で被災した。2024年4月に、JR九州と自治体は八代駅~人吉駅間の復旧に合意したが、残る不通区間の人吉駅~吉松駅間については今後の検討課題となっている。八代駅~人吉駅間の復旧も2033年度を目指しており、その間の経済停滞は避けられない。 このため、新八代ルートは経済発展から取り残されつつある地域の活性化策として注目されているのだ。