オズワルド 伊藤俊介、『9ボーダー』で放つ役者としての存在感 今後は伊藤沙莉との共演も?
4月から放送開始となったNHK連続テレビ小説『虎に翼』が好評だ。日本初の女性弁護士の一人となった三淵嘉子の半生をモデルに、ヒロインの寅子(伊藤沙莉)が法曹界から男女平等の世を切り開いていく物語。 【写真】ブラックの衣装をカッコよく着こなす伊藤沙莉、インタビュー撮り下ろしカット フェミニズムや女性同士の連携を真正面から描いた社会派ドラマである一方、エンターテインメントとしても優れた作品で、痛快でスピード感のある展開や生き生きとした人物描写が多くの人を夢中にさせている。主演を務める伊藤沙莉もコメディエンヌの才能を遺憾無く発揮しており、キャリア20年目にして今後も語り継がれていくであろう代表作を得た。 そんな中、彼女の兄であるお笑いコンビ・オズワルドの伊藤俊介も密かに注目されている。伊藤は現在放送されているドラマ『9ボーダー』(TBS系)に出演中。これがまた、いい演技を見せているのだ。 1作品につき1人は起用されていると言っても過言ではないほど、TVドラマに欠かせない存在となっているお笑い芸人。『イップス』(フジテレビ系)のバカリズム、『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)の肥後克広(ダチョウ倶楽部)、『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の川西賢志郎、『ブルーモーメント』(フジテレビ系)の岡部大(ハナコ)など、今期のドラマだけでも多数の芸人が出演者の一人に名を連ねている。 だが、芸人が俳優業に進出するのは今に始まったことではない。“ビートたけし”こと北野武は芸人としての人気絶頂期に大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』に起用されたのをきっかけに芝居の才能を開花させ、映画の世界へ。1990年以降は自身の映画を監督し、国際的評価を得てきた。 明石家さんまも『男女7人夏物語』(TBS系)や『さとうきび畑の唄』(TBS系)などで普段バラエティで見せる芸人の顔とはギャップのある本格演技を見せている。近年、俳優業はめっきり減ったが、4月27日には人気シリーズ『心はロンリー 気持ちは「・・・」』(フジテレビ系)の21年ぶりとなる最新作が放送され、SNSでは「やっぱり演技がうまい」という声が多く挙がっていた。 そしてもう一人、芸人起用の流れを作った功労者が石井正則だ。2016年まで石塚義之とお笑いコンビ・アリtoキリギリスとして活動していた石井は、脚本家の三谷幸喜に俳優としての才能を見出され、『古畑任三郎』(フジテレビ系)第3シリーズから西園寺守役でレギュラー出演。生真面目で優秀な刑事役がハマり、古畑役の田村正和や今泉役の西村まさ彦との軽快なかけ合いもシリーズファンから好評を得た。 以降も朝ドラ『オードリー』やNHK大河ドラマ『花燃ゆ』など多数の作品に出演し、今や名脇役の一人に数えられる石井。芸人であること忘れるほどの熱演で視聴者を驚かせる人や、コントさながらに笑いを取っていく人など、同じ芸人俳優でもタイプはさまざまだが、石井の場合はナチュラルさが売りだ。役を演じているというより、役としてそこにいるという感じの自然さで作品に溶け込んでいるけど、ちょっとした間の取り方や台詞のテンポにユーモアがある。 そんな石井と、伊藤は演技のタイプがかなり近しい。伊藤が演じているのは、川口春奈、木南晴夏、畑芽育扮する3姉妹の実家・大庭家が営む老舗の銭湯「おおば湯」のアルバイト・梅津剣(通称・ウメケン)。家族の一員かのように大庭家に馴染んでおり、姉妹たちからは雑めに扱われている。 なお、伊藤の役者としての仕事は本作が3作目(※『トモダチゲームR4』は声のみの出演のため省く)。なのに全く肩に力が入っておらず、割と素のまま。伊藤の独特な語り口調と脱力感のある雰囲気がシュールな笑いを生んでいる。 特に第1話でウメケンが「ぶっちゃけこの銭湯って俺の手腕にかかってるじゃないですか」と調子に乗った発言をするも、次女の七苗(川口春奈)に軽く流され、「あ、お疲れっしたー」とそそくさ帰っていく場面がおかしかった。ごく短いかけ合いだが、あの返しの瞬発力の高さと、気の抜けた台詞回しは芸人ならではの巧技だ。物語の展開に大きく関わってくるわけではないけれど、ウメケンの存在がいい感じのスパイスになっていて、毎回登場するのを楽しみにしている自分がいる。 2023年に発売された初の書籍『一旦書かせて頂きます』(KADOKAWA)では、クスッと笑えるのに温かい気持ちになる文章で自身の半生を綴っており、マルチな才能を見せている伊藤。その知性から生まれる色気はスクリーンにも映えそうだ。石井のように俳優業でブレイクし、ドラマや映画で伊藤沙莉と兄妹共演が実現する日も近いかもしれない。
苫とり子