米朝首脳会談前に「人材空白」 予測不能なトランプ・リスク
国務省内の5つの次官ポストが「空白」
米朝首脳会談が実現する兆しが高まる中、トランプ大統領は13日にティラーソン国務長官を解任した。自身の解任を大統領のツイートで知ったとされるティラーソン長官は、核開発を続ける北朝鮮とイランに対して以前から慎重論を唱えていたが、これらの国々に対する考え方でトランプ大統領と修復不能な溝ができたと報じられている。今年1月に発売され、トランプ政権の内情を細かく記して話題になったノンフィクション『炎と怒り』では、ティラーソン長官がトランプ大統領を馬鹿呼ばわりする記述があり、これを根に持ったトランプ大統領が以前から解任を検討していたという話も登場する(ティラーソン長官は、後のインタビューで発言そのものを肯定も否定もしなかった)。後任には北朝鮮やイランに対する強硬論者として知られるマイク・ポンぺオCIA長官が指名された。 ティラーソン長官の電撃解任は、米朝会談実現を含む多くの外交案件に追われる国務省にとって頭の痛い話となったが、そもそも解任は以前からある程度予想されていたものだ。韓国特使団はティラーソン長官のアフリカ歴訪中にホワイトハウスを訪れている。つまり、解任前からすでに蚊帳の外に置かれていたともいえる。電撃解任からほどなくして、ティラーソン長官に近いとされていたゴールドスタイン国務次官も解任された。 現場レベルでも、国務省内で6つ存在する次官ポストで空きが5つもある異常事態が発生している。トランプ政権発足後、各国に赴任する大使がまだ決まっていないケースも少なくなく、ドイツやオーストラリア、サウジアラビアといったアメリカと結びつきの強い国でも、現在まで新大使が決まっていない状態だ。駐韓米大使もまだ決まっていない。 背景が分かりづらいことの多いトランプ人事だが、さらに続く気配を見せている。ワシントン・ポスト紙は15日、トランプ大統領がマクマスター大統領補佐官を解任する決断をしたと報じた。複数の政権高官が同紙に語ったところによると、トランプ大統領はマクマスター補佐官を「柔軟性に欠ける人物」として評価しておらず、ネオコンの代表格として知られるボルトン元国連大使を含む数名が後任候補として浮上している。 13日にティラーソン長官が解任され、6日には鉄鋼・アルミニウムに対する関税に反対する立場をとっていたゲイリー・コーン国家経済会議委員長が辞任を表明した。前述した「人材の空白状態」に加えて、トランプ政権内部で相次ぐ解任と辞任。それほど先の話ではない米朝首脳会談を前に、予測不可能なトランプ・リスクは増大している。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト