韓国軍はベトナム戦争で民間人を虐殺したのか?認める司法、否認の政府 映画「国際市場で逢いましょう」が触れた、派兵を巡る韓国の分断
だが一審判決当時の李鐘燮国防相は国会で「韓国軍による虐殺はなかった。判決に国防省は同意しない」と述べた。 ▽政府機関、調査しないと決定 ベトナムへ派兵した当時の韓国は軍事政権で、民主化したのは1987年だ。韓国には、軍事政権時などの過去の国家機関による人権侵害を調査する「真実・和解のための過去事整理委員会」という政府機関がある。損害賠償を求めたタンさんとは別の村の虐殺遺族が、この委員会に虐殺の調査を求めたが、委員会は昨年5月、調査を行わないと決定した。 リベラル系の最大野党が推薦した委員3人は調査開始を求めたが、保守系の尹錫悦政権側が推薦した委員ら4人が反対し、却下された。金東光委員長は虐殺に関し「国家の責任がある部分はあるのかもしれない」と指摘しつつも、外交で解決すべき問題であり、外国で起きたため委員会の調査権限が及ばないなどと述べた。 ▽法案も審議進まず 一審判決後、最大野党の李在明代表も名を連ねて、野党議員らが虐殺の真相究明を求める特別法案を韓国国会に提出したが、審議は進まなかった。提出代表者の姜旼姃議員は、今年1月の共同通信とのインタビューで「真実を明らかにすることはベトナムとの関係強化だけでなく、韓国で人権意識を高めることにつながる。特別法案は韓国軍による虐殺全般の真相究明を目指す」と訴えた。
韓国国会は野党が多数派だが「今年4月の総選挙を前に、国会は論争となる法案に向き合うのを控えた面がある。野党内でも活発に議論されなかった」と振り返った。 ▽加害と被害 ベトナム戦争では、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)のゲリラが身を隠す密林を消滅させるため、米軍が大量の枯れ葉剤を散布した。枯れ葉剤の影響とみられる結合双生児として生まれた「ベトちゃんドクちゃん」は、日本赤十字社が分離手術を支援し、日本でも広く知られている。 韓国・全南大の博士課程でベトナム戦争を研究する李在春さん(45)は、参戦した父を枯れ葉剤に起因する悪性リンパ腫で亡くした。自身も遺伝の影響と疑う病状に苦しむ。 損害賠償訴訟のフォンニィ・フォンニャット村の事件については「当然のことを認めない」と韓国政府を批判しながらも「動員された軍人は加害者でもあり被害者でもある」と、韓国社会がこの問題に向き合う難しさを語る。