公式より人気…幼児が夢中の「アンパンマン人形劇」動画、法的問題はある? 親からは不安の声も
●YouTube動画の実態は?「締め付けによるファンコミュニティの反発も懸念」
――非常に多くの動画がYouTube上にあがっています。 今回のような「ごっこ遊び」の動画について、許可を得たものではない(権利侵害)として、著作権者からすべて排除されているかというと、そうではないのが現状です。 その原因の1つには、権利者側で対処しきれていないという問題があります。 YouTube上の侵害コンテンツが削除されるか否かは、事実上、Googleに委ねられています。また、動画投稿者の身元を特定するには、裁判所を通じた発信者情報開示請求等の手続きを必要とするなど、時間と費用がかかる場合があります。これを一つひとつおこなうことは必ずしも容易ではないと思われます。 また、別の原因として、ユーザーが投稿したYouTube動画の内容によっては、自社サイトやCMで広告するよりも高い宣伝効果を得られる場合があります。 さらに、こうした動画を削除したり、投稿者を摘発したりすると、動画をきっかけに形成されたファンコミュニティに水を差すことで、ファンから批判を受ける可能性もあります。 それゆえ、権利者はユーザーによる著作物の利用を黙認しているケースもあります。 以上を総合すると、権利者の意向にもよりますが、「ごっこ遊び」動画が実際に民事上あるいは刑事上、違法とまで判断されるのは、ファンコミュニティの形成や宣伝効果よりも、収益確保や作品の評価を守る必要性が高い場合といえるかもしれません。 「ごっこ遊び」動画を投稿・閲覧される方においては、こうした事情も踏まえ、権利者との良好な関係を意識されることが重要と考えます。 なお、今回のケースのようなユーザーが創作したコンテンツは「UGC:User Generated Contents」といわれており、政府や関連企業で適切な流通への取り組みが検討されています。UGCの多くは、既存の著作物を利用したユーザーによる二次創作物と考えられます。 YouTubeにおいても、なるべく権利者とユーザーの意思を反映させる技術として「Contents ID(自動コンテンツ識別システム)」が導入されており、権利者と投稿者の間で収益を分配するような対応も可能です。 【プロフィール】 出井 甫(いでい・はじめ)弁護士 2013年早稲田大学法学部卒業。2015年弁護士登録(第一東京弁護士会・68期)。大手法律事務所を経て、2018年2月骨董通り法律事務所。2023年まで内閣府知的財産戦略推進事務局に出向。主著として、「AI生成物の著作物性に関する議論の現状と今後の法実務」ジュリスト2024年7月号(No.1599)、「AI生成機能の動向と著作権法上の課題への対策」コピライト 2023年1月号など。 事務所名:骨董通り法律事務所 事務所URL:https://www.kottolaw.com/