「B型肝炎」と「C型肝炎」の違いはご存じですか? 症状や治療と歴史を解説
患者は意外と多い!? B型・C型肝炎の患者さんはどのくらいいるの?
編集部: 現在、B型肝炎にかかっている人は多いのですか? 藪先生: 非常に多いです。世界保健機関(WHO)によると全世界で慢性B型肝炎ウイルス感染症患者数は約2億9600万人と推定されています。日本国内におけるB型肝炎ウイルス感染者数は厚生労働省の報告によると、110~120万人と推計されています。 B型肝炎についてはウイルスを排除できる画期的な治療法がなく、進行を食い止める治療に留まっているのが現況です。 編集部: では、C型肝炎にかかっている人は多いのですか? 藪先生: 世界中でのC型肝炎の患者数は約7000万人と推定されています。日本国内におけるC型肝炎ウイルス感染者数は、厚生労働省の報告だと90万~130万人ですが、これは既に治療が行われている患者さんも多数含まれています。 ウイルスを排除できる治療法が確立されたことや感染対策が徹底されるようになったことで、今後新規のC型肝炎感染者はほとんどいなくなると思われます。
B型・C型肝炎の治療は? 薬やワクチンはあるの?
編集部: B型肝炎の経過や感染リスクについて教えてください。 藪先生: B型肝炎はC型肝炎よりも遥かに強い感染力をもち、急性感染で治癒する形態(ほとんどの成人感染)と慢性的にキャリアに移行する形(免疫力の弱い乳幼児期の感染)などがあります。 血液を介した強い感染力があるので、陽性者の血液の取り扱い(外傷や鼻血など)や性的接触、注射器などの取り扱いに注意する必要があります。 慢性化(キャリア化)すると、ウイルスが自然経過で減少する場合もありますが、肝炎が慢性化して肝硬変や肝がんに進展する場合もあり、進展させないために医療介入が必要な点はC型肝炎と同じです。 編集部: そうなのですね。 藪先生: 最近の問題としては、従来の母子垂直感染以外に、性的接触による水平感染が増えており、急性肝炎の主たる原因になっています。 さらにはB型肝炎ウイルスの中でも遺伝子A型のものは急性感染後、肝障害が沈静化したように見えても持続感染に移行することもあり、注意が必要です。 また別の問題として、眠っていたウイルスを呼び覚まして劇症肝炎のような重大な感染状態を引き起こすこともあることがB型肝炎ウイルスの大きな特徴です。 即ちほとんどウイルスがいない状態で治癒ないし沈静化していると考えられる肝炎が、化学療法・免疫抑制剤などによりウイルスが爆発的に増殖し、重症化したり、ほとんどウイルスがいなかった筈の移植のドナー肝からも肝炎が発症したりする場合などが問題になっています。 編集部: B型肝炎に対してワクチンなどはあるのですか? 藪先生: B型肝炎ワクチンについては、中和抗体であるHBs抗体の獲得が目的です。 3回接種型のワクチンが開発されていますが、すでに持続感染がある人にとっては効果がなく、経口核酸アナログ製剤を終生飲み続けるか、徐放型インターフェロンで免疫抵抗力を上げる治療が主体です。 日本ではB型肝炎ウイルス感染予防対策が強化されており、新生児への予防接種が実施されています。 編集部: B型肝炎の治療は簡単ではないのですね。 藪先生: B型肝炎の治療においては、まだまだ改善の余地があります。現在、B型肝炎の治療には前出の経口薬治療法や注射剤がありますが、ウイルスを完全に排除することはできず、長期的な投薬が必要です(治療費の補助制度があります)。 また、肝硬変や肝がんにまで進展した場合は、特異的な治療法が開発されておらず、現在は対症療法が主流となっています。したがって、B型肝炎の治療においては、まだまだ課題が残されていると言えます。 編集部: C型肝炎の経過・治療についても教えてください。 藪先生: 血液を介して感染する点はB型肝炎と同じですが、感染力は比較的弱く、汚染血の輸血、不潔な医療操作、入れ墨や覚せい剤使用以外などではほとんど感染しません。 しかしながら、自覚症状も乏しい中、肝硬変・肝がんに移行していくという特徴があり、未治療の感染持続患者は特に注意が必要です。治療については、画期的な変革(パラダムシフト)を迎えたと言えます。 編集部: それはどんな治療ですか? 藪先生: ウイルスをほぼ排除できる経口薬の開発です。従来のインターフェロンやリバビリンといった治療法に代わり、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という新しい治療法が登場し、治療効果が劇的に向上しました。 DAAは、C型肝炎ウイルスの増殖に必要な酵素を直接阻害することで、高いウイルス抑制率を示すことができます。DAAによる治療では、治療期間が短く、有効率も高く、副作用も少ないため、従来の治療法に比べて、患者の負担が軽減されるという利点があります。 高額な治療ですが、治療費の補助があるので、未治療の方は、ぜひ専門医の診断・治療と治療補助の申請をお勧めします。一方で、ワクチンについてはC型肝炎ウイルスは変異が激しく、中和抗体を誘導するワクチンは開発されていません。 編集部: 最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。 藪先生: B型肝炎ウイルスは1965年に、C型肝炎ウイルスは1989年に発見されました。B型肝炎・C型肝炎はかつて国民病とまでいわれた病気で、当時、国を挙げて肝炎の対策に力を入れてきました。 幸い、C型肝炎については画期的な経口薬が開発され、状況は劇的に改善しています。またB型肝炎については進行を食い止める経口薬もあり、ワクチン接種事業が進めば、将来的に患者が激減することが予想されます。 また、肝炎ウイルス検査の公費負担、新生児へのB型肝炎ワクチン接種、B型肝炎・C型肝炎の治療費の公費負担など、国の取り組みも功を奏しています。 肝炎は、一度、肝硬変や肝がんまで進行してしまうと治療効果が少ないことから、自らが、肝炎についての知識を持ち、病気の早期発見・早期治療に積極的に取り組んでいただけたらと思います。