破天荒に見えて実は周到な〝トランプ流対中高関税〟のからくり 増えた関税収入で「米国を再び偉大に」の目玉、減税策の税収減を賄う
【お金は知っている】 先の米大統領選で圧勝したトランプ前大統領の発言は粗野で破天荒のように感じる向きが少なくないが、実は用意周到に計算されている。 【ひと目でわかる】トランプ氏当選で懸念される日本の企業活動への影響 トランプ氏は大統領選挙期間中、中国からの輸入品に対して60%以上、日本など中国以外からの輸入品には一律10%以上の追加関税をかけると宣言してきた。対中高関税は第1次トランプ政権(2017年1月から4年間)が仕掛けた米中貿易戦争の米側の主力武器で、バイデン現政権にも引き継がれた。しかし、その「戦果」は米側にとっては極めてはかばかしくない。 米国の貿易統計で23年と17年を比較してみると、米国の対中貿易赤字はそれぞれ2790億ドル、3750億ドルと1000億ドル近く減っているが、世界全体に対する米赤字は各1兆600億ドル、8050億ドルと2000億ドル以上も増えている。中国側は東南アジアやメキシコなどを経由する迂回(うかい)輸出を急増させたからだ。米中貿易戦争は19年12月に「休戦」となったが、中国側が2000億ドルと約束した米国からの輸入増は23年の17年比で約180億ドルにとどまっている。高関税を中心とする米国の対中強硬路線は、米国の貿易赤字縮小や対中輸出増には結びついていないことは明らかだ。 それでもなお、来年1月に復権するトランプ氏はなぜ対中高関税にこだわるのか。その答えは減税財源確保にある。 2018年勃発の貿易戦争では、中国製品についておおむね10~25%の追加関税をかけたが、今回は60%以上にするとトランプ氏は息巻いている。中国以外への10%、中国への60%追加関税が、来年1月発足の第2次トランプ政権で実施される場合、米国の関税収入はどれだけ増えるのか。米国の23年の輸入額をもとに粗計算してみると(グラフ参照)、中国以外が約2680億ドル、対中国が約2560億ドルで合計5200億ドル余に達する。 「MAGA(米国を再び偉大に)」を標榜(ひょうぼう)するトランプ氏が米有権者を引きつけた目玉は減税である。トランプ氏は法人税率の引き下げや、チップ・社会保障給付金・超勤手当への非課税措置、自動車ローン金利と州・地方税分の税控除などを約束してきた。 米議会の超党派組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によれば、こうした減税案は米財政赤字を10年間で約4兆ドル、年平均で4000億ドル増やすことになる。だが、高関税による税収増で、法人や個人向け減税にともなう税収減を十分賄える計算になる。しかも、追加関税は、輸入品価格に上乗せされるので、消費者のフトコロを直撃するが、その分、減税によって消費者に還元させることができる。こうみると、トランプ流高関税と減税の組み合わせはうまくつじつまが合ってくる。「MAGA」の決め手が高関税なのである。
米メディアは高関税は物価を押し上げるし、減税はインフレを高進させると問題視しているが、輸入物価上昇は消費を実質的に抑えるので、家計向けの減税で需要を喚起するのは経済学的にも合理的な選択なのだ。 (産経新聞特別記者)