法務大臣が“法律の専門家”ばかりではないワケ 「職種限定はむしろリスク」戦前は“軍の暴走”招く要因にも
法務大臣が「法律の専門家」である必要はない
冒頭で紹介したように、これまで法務大臣の任には、法曹有資格者である人もそうでない人も就いてきたが、そこに大きなメリット、デメリットはあるのだろうか。三葛弁護士は、「法曹資格の有無によって、法務委員会などにおける議論の深め方は違ってくる」とした上で、次のように続ける。 「ただし一般企業に置き換えて考えると、社長が必ずしもその企業のすべてに精通しているわけではありません。極論を言えば、トップは “決定”と “責任を取る”ことが仕事ですし、経営と現場のたたき上げ感覚はだいぶ違うという価値判断もあると思います。 法務大臣が法曹資格を持っていた場合、属人的にこだわりを持って対処することはあっても、基本的には機関のトップとしての判断が求められる役割であるため、特に法律の専門家であることが必要不可欠とまでは言えないでしょう」
大臣就任に条件を付すことの問題点
さらに三葛弁護士は、「むしろ法務大臣を法曹有資格者に限定するように条件を付すことのほうがリスクを感じる」とも指摘する。 「帝国憲法下の内閣には軍部大臣(陸軍大臣、海軍大臣)のポストがありましたが、これらに就任できるのは現役将官のみであるとしたいわゆる『軍部大臣現役武官制』が存在していました。 これによって、軍部の意向に反したため内閣成立が阻止されるということもありましたし、その後も、軍部大臣現役武官制は政権をコントロールする手段として利用され、政治に対する軍部の影響力が強くなった側面もあります。 こうした歴史を踏まえると、一般論としても、ある特定の職業(ギルド)や資格・身分を有することを大臣就任の要件にすることは、議院内閣制や総理大臣の権限・権能を前提とする現在の権力システムにはそぐわないと考えられます」
弁護士JP編集部