【寄稿】在日ブラジル人も横の連絡組織を 日本とブラジルの気質比較 森本昌義
日本にも文協のようなコネクションを
現在日本には20万人強の日系ブラジル人が住んでいて、密度の高い浜松や大泉などでは地域コミュニティーが散在していますが、相互にコミュニケーションを行い、共通の課題の解決に協力するような横の連絡はないようです。 過去に数回日本を訪問しこれに気づいたブラジル日本文化福祉協会(文協)の石川レナト会長らが、今年第64回海外日系人大会(10月15~17日東京で開催)に参加するのに合わせ、10月13日東京市ヶ谷にあるJICAにおいて第1回文協日本コネクション(Conexão Bunkyo Japão)を開催しました。 群馬や浜松、三重県などに在住の若い日系ブラジル人が約40名参加しましたが、駐日オクタビオ・コルテス大使、浜松のアルデモ・ガルシア総領事、東京のダニエル・レイチ代理領事らもご出席いただき、関係者のこの会議への期待の大きさに驚かされました。 まず、現在サンパウロのジャパンハウス名誉館長、元外交官で財務大臣(1994年のレアルプラン実施)でもあったルーベンス・ヒクペロ氏と、前マナウス日本総領事関口ひとみ氏が、ご自分の生い立ちや経歴とともにマルチクルチュラリズム(個人が複数の文化的基盤を有すること)についてお話になり、会場は大変ポジティブな雰囲気に包まれました。 このあと、文協副会長のオストン平野さんが、日本の若者と日系ブラジル人の若者とを比較するため、私をインタビューする形式で話を進めてくれました。客観的な根拠や証拠が乏しいなか、これまでの経験などに基づき私がお話ししたことは次の通りです。ブラジル日報の読者の皆さんのご意見をお寄せいただければ幸いです。
日系ブラジル人と日本人の若者比較
質問:日系ブラジルの若者は、同世代の日本人と比べてどんな違いがあると思いますか? 回答:まず、ブラジル人はどんなことについても自分の意見を持っていて、年齢の違いや社会的地位に関係なく、相手と対等に率直に話します。日本人はそうではありません。社会的地位の違いや年齢差により素直に話せないことが多く、さらに相手により敬語を使わなければならないこともあります。 それからブラジル人は多様性を重んじ自分は他人と異なることは当然と考えますが、日本人は逆です。日本人は皆と同じように振る舞おうとします。極端に言えば、他と違うことは恥ずかしい、と感じます。 私は10年間ブラジルで暮らしましたが、その前の15年間はアメリカのカリフォルニアに住んでいました。アメリカにはブラジルに次いで日系人が多くいらっしゃいますが、アメリカの日系人は、他の国からの移民やその子孫と同様、子供の時から、アメリカ建国の精神(アメリカ社会が希求する価値でもありますが)である、自助・独立心、明確な自己表現、正義の追求に価値を見出そうとします。 それで日系人も自分の祖先の文化や習慣などには興味を示さず、日本からは距離を置き、アメリカに進出している日本企業には見向きもしません。 ブラジルの日系人はそうではありません。数年前ですが、文協の若者たちで構成する架け橋プロジェクトが、ブラジル社会での日系人のアイデンティティとして8個の価値観を特定しました。責任感、忍耐力、向上心(学習)、親切心、正直、感謝、協力、敬意の8個で、これらを次世代の日系人へ引き継いで行こうというものです。このことは日本政府にも伝わり、岸田前首相が今年5月に訪伯した際開かれた文協講堂での歓迎会で言及なさいました。 蛇足かもしれませんが、私から見た最近の日本の若者の変化について触れておきたいと思います。まず、日本の国そのものについてあまり興味がないようです。日本では国政選挙での投票率は年々減少していますが(日本では投票はブラジルのように強制されません)、特に若者の投票率が低いです。2年前に参院選挙では、60歳以上の投票率は66%でしたが20歳台では33%でした。 ついで、現在多くの企業では、若手社員の鬱や無気力・適応障害の対応に悩んでいるようです。もともと日本の労働慣行は欧米やブラジルとは異なり、毎年高校や大学の卒業生を一括して正規従業員として採用します。今必要な仕事に就けるために採用するのではなく、長く企業に在籍することを前提に教育訓練しながら適宜仕事に従事させるというやり方です。 あたかもクラブの新入会員を募集するのに似たやりかたであるため、〝メンバーシップ採用〟という呼び方が使われます。さらにこのような形で入社した正規従業員は、悪意か重大な不注意により会社に損害を与えないかぎり解雇されることはありません。昇給や昇進は業績や能力よりも、勤続年数が大きな要素になります。 業務内容が安定し大きな技術変動が無かったころはこのような雇用形態がうまく機能していたのですが、昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)や女性活用、さらなる合理化やコストカットなどのために、従業員に大きなプレッシャーがかかるようになりました。 残念ながら若年層はプレッシャーに弱く、鬱や適応障害に陥る例が多くなりました。この状況は子供たちの間でも見られ、不登校が増えています。日本人には、ブラジル日系人が誇る忍耐力がなくなってきたのではないか、私は心配しています。
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