昇給したのに、暮らしは逆に苦しく…「心も体もギリギリ」シングルマザーの嘆きは候補者に届くのだろうか
「悪いけど選挙どころじゃない」。鹿児島市の飲食店でパートとして働きながら3人の子どもを育てるシングルマザー(34)はため息をつく。衆院選の期間中だという実感は乏しく「公約を見比べる余裕もない」という。 【写真】〈関連〉子どもを連れて帰路につくシングルマザー=16日夜、鹿児島県内
小学生の長男と長女、5歳の次女との4人暮らし。この数年、元夫から養育費は支払われていない。朝から夕まで週6日、厨房(ちゅうぼう)で立ち仕事を終えると、幼稚園や児童クラブの迎えに走る。帰宅後は夕食を作り、子どもの風呂、洗濯、片づけ…。「一度休んだら立ち上がれない」。寝かしつけるまで気力を振り絞って動く。 昇給し、「これでやっと貯金できる」と期待したが、世帯所得が非課税世帯の対象額を超え、今年から所得税などの優遇・免除制度が受けられなくなった。 子の成長に伴い食費や学費は増し、物価高騰も家計を圧迫する。「習い事もさせてあげたいし我慢はさせたくない」。正社員になれば給与は安定する。だが、日曜日と夜の出勤が求められるため難しい。家族4人ゆっくり過ごせたのは、子どもが新型コロナウイルスに感染して自宅待機になった時ぐらい。「『ひとり親は優遇されていいね』と言われるが、心も体もギリギリ。収入の多い議員には、この苦労は分からないだろう」と嘆く。
県内のキャバクラ店に勤めるシングルマザー(28)は「支援制度や手当があることは心強いが、所得制限があるものばかり。働くほど、受けられる支援も子どもとの時間も減り、精神的にすり減る」と明かす。 認可外の夜間保育を利用していた時の保育料は月7万~11万円。行政の補助を差し引いても出費は大きい。「手当を受けるための審査一つとっても、自治体によって差がある。地域格差が生まれないよう国の支援制度を充実させてほしい」 厚生労働省のひとり親世帯の調査(2021年度)では、全国のひとり親世帯134.4万世帯のうち、母子世帯は88.9%。ひとり親世帯の就業率は8割を超えるが、母子家庭は38.8%が非正規雇用で平均年間就労収入は236万円。父子家庭は496万円だった。養育費受領率は母子世帯28.1%、父子世帯8.7%にとどまる。 男女共同参画白書(23年)によると、ひとり親世帯の貧困率は44.5%で、OECD加盟国のうちデータがある36カ国中、ワースト5位だった。
県母子寡婦福祉連合会(鹿児島市)には、コロナ下での失業や物価高による生活苦などの相談が年間100件以上寄せられる。前原成行(しげゆき)事務局長(72)は「非課税世帯から外れたひとり親など準貧困層が行政支援からこぼれ落ちてしまいがち」と指摘。所得制限金額の見直しなど経済情勢の変化に応じた政策を求める。「親1人が全て背負わざるえないのが現状。養育費についても個人任せにせず、第三者が介在した金額の取り決めや支払い義務を制度として整えなければ救えない」
南日本新聞 | 鹿児島