「人材雇用を破壊したのは誰だ」非正規雇用、外国人労働者、価格崩壊で弱体化する現代ニッポン
「派遣は麻薬と同じ」
山田 キャリアが〝リセット〟され続ける─。これこそが、非正規雇用最大の問題点だと思います。正社員と非正規との役割分担やその労働条件を明確にして、非正規が本当に納得して働いているならいいと思うのですが、そうではなく、正社員の置き換えになっている。3年経ったら、新しい職場に行かないといけない。しかも、人間関係も一からつくり直す必要もある。同じ事務の仕事でも、会社によってやり方は違うじゃないですか。これが辛い。 ずっと派遣社員で、正社員に登用された人を知っていますが、3年ごとに「もうすぐ切られる」から、その前に職探しをする。精神衛生上も非常に不安定になると話していました。 出井 小林さんの著書を拝読していて「派遣は麻薬と同じ」という言葉を使われていました。「派遣」は、まさに外国人労働者に置き換えることができます。派遣会社が労働者を派遣することで紹介料をもらうように、技能実習生についても「監理団体」が、各種名目で企業から手数料を徴収します。そこに「利権」が生まれるわけです。留学生も同じです。留学生はブローカーにお金を払って、つまり借金を背負って日本語学校に入ります。 留学生はビザ取得時に学費を支払う経済力を証明する必要がありますが、書類の偽造が横行しています。
──実際に働く人がお金を払い、仲介する人が儲けているという構図ですね。おかしな話です。 山田 先ほど話した長い間、派遣社員として働いていた知人よると、その人を派遣してもらうために、派遣先の会社は派遣会社に1時間2500円くらい支払っていたそうです。その人の時給は1500円ちょっとなのにと、愚痴を言っていましたが。 あるとき、派遣先の会社が「時給を50円アップします」という提案を派遣会社にしたそうです。2年くらい働いて、たったの50円ですよ。しかも、50円アップのうち、派遣会社が「30円寄こせ」と言ってきた。それでもう頭きて徹底的に抗議したら、派遣会社のほうが折れて50円はもらえたそうです。そればかりか、派遣社員から正社員になる際、派遣会社が「足抜き料をよこせ」と言ってくるケースがあるそうです。まるで江戸時代の芸者か、と言いたくなりますよ。呆れてものも言えません。 出井 外国人労働者も一緒なんです。企業側には、「実習生は安い」というイメージが浸透してますが、受け入れている農家や中小企業も、監理団体などへの支払いで結構な費用がかかっています。 小林 看護師、保育士などでは「人材紹介」という形になっていますね。そうした現場では、人員の配置基準があるから絶対に人が必要になる。そういう紹介会社にお金が落ちることになるから、本来支払われるはずの看護師、保育士の人件費分から中抜きされていくのです。 こういうことをしているから、経営者や企業の人事部から「人材の目利き」がいなくなりました。それが平成という時代の特徴でしょう。 山田 先日、あるコンサルの人から驚愕の事実を聞いたのですが、「サジェストワード検索」というものがあるそうです。検索エンジンの検索窓に「◯◯会社」と書き込むと、それに続いて「評判」「倒産」「ブラック企業」などといった言葉が並ぶのです。それをクリックすると、その会社の悪評が書かれている。そして決まって、検索ページの下には転職会社の広告が表示される。そうやって転職を煽るわけですよね。転職が繰り返されることで、転職会社は儲かる仕組みになっている。彼らは何も生み出していないのに……。 出井 技能実習でいうと監理団体はものすごく儲かるわけですね。 実習生の数は約40万人ですが、月5万円の手数料を取っていると年2400億円ですよ。約3700の監理団体が2400億円を山分けしているわけです。メディアが「悪い監理団体がある」と騒ぐので政府は数を減らして監視を強めようしていますが、そうすると大手に利権が集中する。大手の団体ほど、政治力がありますからね。派遣にしても、外国人労働者の受け入れをめぐる現状を見ても、日本を良くしたのか悪くしたのかというと、結果的に僕は良くしていないと思います。 山田 出井さんの戦うべき戦場は日本国内にありますね! 出井 そうですね。戦争とは違った意味で、複雑に利権が絡み合うややこしいテーマだと思います。