「もめることは悪いことじゃない」...“和”を重んじる日本人だからこそ勘違いしがちな、話し合いで「一番大切なこと」とは
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第12回 『「“圧勝”ではなく“僅差”の関係を目指せ」…相手を説得したその“先”まで見据えた接し方とは』より続く
「もめることは悪いことじゃない」
君がスポーツ系の部活のリーダーになったとしましょう。君は先輩から受け継がれた練習メニューを始めようとしました。ところが、Aさんは「YouTubeで見つけたドイツ式の練習がいい」と言い出し、Bさんは「有名な選手が勧める練習がいい」と言い出しました。 さあ、君はどうします? まず、リーダーとして知っておいてほしいのは、「もめることは悪いことじゃない」ということです。 真剣になればなるほど、もめる。だから、「もめることは、お互いが本気だ」と考えるんです。そうすれば、「もめた時」に慌てなくてすみます。 AさんもBさんも、そして部長の君も、練習に対して真剣です。だから、ぶつかる。それは素晴らしいことです。
「一番大切なこと」とはなにか
こういう時、「和を乱すな」とか「キャプテンに迷惑だろ」とか言い出す人がいたりします。 ぼくたち日本人の中には、この考え方がものすごく強くあります。 「人に迷惑をかけないこと」が一番大切だと思ってしまってるんですね。 ちょっと前まで、多くの日本人は同じ方向を見て、同じモノを好きだった。だから、「同じであること」「ひとつになること」を、無条件でいいことだと思う人がまだまだ多いんです。 で、ものごとがもめたら、一番重要なルールはなんだと書いたか覚えていますか? そう。「一番大切なこと」は何かを考えることですね。 チームにとって、一番大切なことはなんでしょう? 「キャプテンに迷惑をかけないこと」「チームの和を乱さないこと」……違うよね。 えっ? そんなの決まってる。「試合に勝つこと」だって? さあ、ここから「対話」が始まるんだ。 君は「試合に勝つこと」が一番大切なことだと思っているとする。 でも、「試合に勝つこと」は、どのレベルなんだろう。「都道府県大会レベル」で勝つことが一番大切と思っているのか、「とにかく1回戦勝利」なのか、「全国大会優勝レベル」なのか。 「試合に勝つこと」より、「みんなでスポーツを楽しむこと」が一番だと思っている人はいないだろうか。練習そのものより、「練習の後、みんなで美味しいアイス(またはラーメン)を食べること」が一番大切だと思っている人もいるかもしれない。 「部活と勉強を両立させること」が一番大切と思っている人や、「自分の自由時間を確保しながら活動すること」が一番大切だと思っている人もいるかもしれない。 チームとして活動するためには、みんなが納得する「一番大切なこと」を決める必要があるんだ。 リーダーの君が決めるんじゃないよ。答えは君の心の中にあるんじゃない。君はまず「ファシリテイター」として、みんなに「対話」をうながすんだ。
鴻上 尚史