勝手に“内定取消”扱いに…「あなたが受け入れた」一方的な通知で“辞退”させようとした会社を提訴 裁判所の判断は?
裁判所の判断
Xさんの勝訴である。 ■ 内定辞退? 内定取消? 裁判所は「社長がXさんの研修内容などに不満を持ち、Xさんからの内定辞退の申し出がないにもかかわらずXさんが内定を辞退したと取り扱った」として、「会社からの内定の取消(労働契約の一方的な解約の意思表示)にあたる」と判断した。 ■ 内定取消は非常に難しい ここでマメ知識を。内定の取消は非常に難しい。なぜなら、解雇とほぼ同じだからだ。 内定という言葉からは“仮の契約”のような印象を受けるが、法律的には「契約」にあたる(始期付解約権留保付労働契約)。なので【内定を取り消す=契約を一方的に破棄する】こととなり、そう簡単には認められない。 「どんな場合に内定の取消がOKになるか?」について、最高裁は 「採用内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合」と示している。(大日本印刷事件:最高裁S54.7.20) 今回の事件のように、事前研修の履修状況についてささいなトラブルがあった程度では、内定取消はまず認められない。 ■ バックペイ 裁判所は会社に対してバックペイ約226万円を命じた。 バックペイとは「過去の給料」のこと。社員が解雇や内定取消の裁判に勝訴すると、【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】を獲得できるのである(民法536条2項)。※ただし、他社に就職していれば若干の減額あり。 ■ 慰謝料30万円 内定取消をめぐって慰謝料が認められるケースは少ないが、本件では、以下の事情が考慮されて慰謝料30万円と認定されている。 ・事前研修の不足について会社から具体的な指摘はなかった ・Xさんが内定を辞退していないのに会社がそのような扱いにした ・その扱いの数日後には何の説明もなく出社を命じている …etc ■ 内定辞退は原則OK 会社からの内定取消がOKになるケースは非常に少ないが、応募者側からの内定辞退は原則OKだ。なぜなら、民法627条には「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と規定されているから。 詳しくは関連記事【入社前日の「内定辞退」はアウトorセーフ? 不義理と“見なされない”基準とは】をご参照いただきたい。
最後に
会社側が「一方的に内定を取り消して裁判を起こされたら負ける」ことを分かっている場合、応募者側が「承諾した」との一筆を得るために、「内定辞退取消承諾書」のような“よく分からない書面”へのサインを求めてくる可能性がある。厳しいようであるが、サインしてしまうと応募者側はほぼ負けるだろう。 もし内定先の会社からこのようなサインを求められたときは、いったん保留して、労働局や弁護士に相談することをオススメする。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡