ショッピングモールや駅で「礼拝室」が増加中 異なる宗教、文化への関心呼び起こしのきっかけに
ショッピングモールなどで「Prayer Room」と書かれたサインを見かけたことはないだろうか。買い物をする身近な施設にありながら、私たちにとってなじみの薄い言葉だ。日本語なら「礼拝室」、つまり礼拝する場所のことだ。宗教を問わず利用できるが、主として1日5回の礼拝が義務付けられているイスラム教を想定して設置されている。 大型ショッピングモールを運営するイオンモール(千葉市)は、これを日本語で「祈祷室」と表示している。2013年に千葉市の「イオンモール幕張新都心」で設置したのを皮切りに、千葉、愛知にそれぞれ2カ所ずつ、沖縄、広島にそれぞれ1カ所ずつの計6店舗に祈祷室を設けた。また、鉄道の駅では2017年に東京駅、2018年に東武日光駅に、東名高速道路では2019年にEXPASA足柄や浜名湖SAなどに礼拝室が次々と登場している。 なぜ、今、こうしたスペースが増えているのか。そして、どのように利用されているのだろうか。
全国6店舗のうち2店舗が愛知県に
筆者が住む愛知県内のイオンモールで祈祷室があるのは、常滑市にある「イオンモール常滑」と名古屋市港区の「イオンモール名古屋茶屋」の2店舗だ。全国6店舗のうち2つが愛知県にある理由について「祈祷室はインバウンドを含め、国内・海外からのお客さまの来店が多いエリアの施設を中心に導入しています。常滑や名古屋茶屋に関しても同様の経緯です」とイオンモール広報部は説明する。 常滑の店舗は、海外からの玄関口である中部国際空港セントレアから名鉄電車で1駅で、訪日外国人も立ち寄りやすい立地だ。オープン時期は常滑が2015年12月、名古屋茶屋は2014年6月。イスラム教徒の多いインドネシア、マレージアを含む東南アジア5カ国のビザ発給要件が緩和された2013年以降に作られ、客数の増加が見込まれたことも理由と考えられる。 その一つ、「イオンモール常滑」は、免税代行カウンターなどを設けて訪日外国人の利便性を高めるともに、屋外型テーマパークを併設。広域からの集客に力を入れる中部地区最大級のショッピングモールだ。 祈祷室が設置されているのは、映画館に向かう通路の奥だ。人がひざを曲げて祈るピクトグラムのような視覚的表示が壁にあり、迷わずたどり着けるような配慮がされている。扉の向こうは男性と女性それぞれの部屋に分かれ、祈りの前に手足を洗い清める洗浄スペース、そして礼拝する空間がある。 休日に訪れたところ、買い物客は多かったが、そのほとんどが祈祷室の前を気に留めることなく通り過ぎていた。しかし、まれに立ち止まって不思議そうに眺める人や、祈祷室の隣にあるエレベーターを待つ間に視線を向ける人もいた。 一方、「イオンモール名古屋茶屋」は名古屋市港区にある。ここの祈祷室は、文具やキッチン用品をそろえるコーナーの手前、エレベーターと非常口の間にある。祈祷室の前は暗くなっていて少し場所が分かりづらい。利用するときは、インターフォンで係員を呼び出し、鍵を開けてもらう仕組みになっている。入室には少々手間がかかるが、過去にここを利用したイスラム教徒の女性からは「体を清める洗浄スペースが使いやすい」と好評の声が聞かれた。 ところで、利用者であるイスラム教徒たちは、どのように礼拝しているのだろうか。筆者が訪れたタイミングでは、祈祷室に入る人と出会えず、イオンモール内での取材や撮影も認められなかったので、名古屋市中村区にある「名古屋モスク」を訪ねた。