ロンドンとブリュッセルで痛感した円の圧倒的弱さ。海外旅行がこんなにコストフルな本当の理由
円の購買力低下の実態
なお、為替レートに物価変動を加味した購買力の通貨間格差は、実質実効為替相場(REER)を通じて可視化される。円、ポンド、ユーロに関して、2000年以降の推移を比較したのが、下の【図表3】だ。 ユーロは基本的に強含みが続く一方、ポンドは反発を挟みながらも低迷を続けてきた。とは言え、そのポンドですら円との格差は大きい。2000年1月との比較で(2024年9月時点)、ポンドの下落率が14%であるのに対し、円のそれは54%にも達する。 これだけ円の購買力が弱まると、イギリスやヨーロッパで購入する財やサービスが割高に感じられるのも当然だ。とりわけ、2010年以降を見ると、基本的に横ばいで推移するユーロとポンドに対し、円は明確に切り下がっていて、他の通貨に対して特異な動きを強いられていると表現してもいいだろう。 日本が直面している現状を整理すると、名目賃金の上昇率が他国に比べて相対的に劣後しており、それが他国との物価上昇率の格差を生み出し、結果として実質ベースの円安が促されている。 そうした厳しい現実の上に、パンデミックやロシア・ウクライナ戦争、ガザ危機などを背景とする輸入財の価格高騰(特に資源)が重なり、資源輸入国ゆえに貿易赤字の拡大を強いられ、それが円安を加速させている実態がある。 ただ、名目ベースの円安に関しては、内外の金融政策格差(つまりは内外金利差)など目先の材料に応じて、ある程度の修正が期待されるものの、賃金上昇に裏打ちされる物価上昇率の格差は簡単には解消されない。 冒頭に書いたように、円の対ポンド相場が一気に25%切り上がるような奇跡的なシナリオが展開されたとしてもなお、アイスコーヒー1杯が割高に感じられてしまう現実、その背後にあるのがそうした解消しがたい格差の存在なのだ。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
唐鎌大輔