『CDTV』は2時間レギュラー、各局新番組も続々……テレビがいま音楽番組に注力する理由
“視聴率が取れない音楽番組”のイメージを打破した『CDTVライブ!ライブ!』の画期性
しかし、時代が成熟していくとともに、テレビそのものが“一家に1台お茶の間で団らん”の時代は終焉を迎えていく。やがて、音楽番組では視聴率が取れなくなり、音楽番組きっかけのヒット曲の輩出が困難な冬の時代に突入していく。 それから十数年の時が経過した。その間に、ユーザーの音楽を楽しむ環境は激変し、CD=パッケージの時代から、デジタルダウンロードを経て、サブスク(定額聴き放題サービス)へと移り変わっていく。テレビに対しても受動型のコンテンツ視聴から、自ら能動的に新たなコンテンツとの出会いを求め始める。その媒介としてSNSがテレビを凌駕する形で時代の中心に躍り出て、新たな音楽やアーティストの出会いを加速させていく。ユーザーの嗜好は細分化され、多様化していくと同時に、ミリオンヒットが生まれにくい構造に変化していったのである。ここにきて、従来のテレビの音楽番組の役割は終わったかのようにみえた。しかし、そんな状況の中、音楽番組に新たな価値観と役割が加わって、このタイミングでの活性化へとつながっていった。そこには、“ファンダム”とも呼ばれるアーティストを熱心に応援するファンの行動も大きく関係している。そういった視聴者がリアルタイム視聴を復権させ、局側もTVerなどの見逃し配信への対応整備を進めたことが相乗効果を生み、音楽番組の存在感が視聴率とは別のベクトルで数値化され、再注目されていったのである。 その象徴的な番組として、『CDTVライブ!ライブ!』の登場と躍進がひとつのエポックとなっていることがわかる。かつては土曜深夜の音楽番組として、MVの紹介と共にヒットチャートのカウントダウンを軸に据え、そこにプラスアルファする形で、ゲストパフォーマンスを見せるというシンプルかつコンパクトな構成で、時代のひとつの潮流となっていた『COUNT DOWN TV』が、コロナ禍真っ只中の2020年にゴールデンタイムの月曜22時への進出を機に内容を大きくリニューアル。特筆すべきはトーク部分を極力廃し、出演アーティストのパフォーマンスに力点をおき、楽曲をフルコーラスで見せることに集約したことだ。 従来、テレビでのパフォーマンスはフル尺の音源を2分半前後にエディットした「テレビサイズ」といわれる音源でのパフォーマンスが基本とされていた。これは、歌が長いとその間に瞬間視聴率が下がってしまう傾向にあり、視聴率を落とさないための名目となっていた。かつては、「トークは長く、歌尺はなるべく短く」の時代が長く続いていたのだ。しかし『CDTVライブ!ライブ!』では、パフォーマンスもテレビサイズからフル尺になったことで、視聴者が見たいアーティストのパフォーマンスをたっぷり見せることが可能となったことが革新的だった。またスペシャル回でのみ実施されるフェス企画(1組のアーティストが自身で作り上げたセットリストで30分~90分の複数曲ライブを行う)も行われるなど、新たなアプローチが番組独特の色を形成していった。 そして、もう一つの特徴はSNSきっかけでバズってきたブレイク直前のアーティストを積極的に取り上げ、歌唱演出にSNSの要素をいち早く取り入れたことだ。TikTokなどで展開されるUGC縦型動画風の映像をセットの背景に映し出し、その前でアーティストがパフォーマンスを行うことで、今SNSで流行して火がつきかかっていることが視聴者に一目瞭然でわかる。そのわかりやすいビジュアル効果で、オンエア後のSNSでの反響やサブスクでの視聴にダイレクトにつながっていく相乗効果を生んでいった。こうして示された新しい音楽番組の形を定着させたという功績は大きいと思う。そんな『CDTVライブ!ライブ!』がこの4月から2時間編成になるという。レギュラー番組として2時間フォーマットの音楽レギュラー番組を行うというこの次の試みは、さらに地上波音楽番組の可能性を示していこうという意欲を強く感じる。TBSには、音楽番組全盛期時代の王者だった『ザ・ベストテン』のDNAが脈々と受け継がれ、今につながってるのではないかと思わず想像してしまう。 そんな2時間フォーマットになる『CDTVライブ!ライブ!』のさらなる進化、深化を期待したいし、その結果、どう他局の音楽番組の構成や演出に影響を与えていくのかも、同時に注視していきたい。