松村北斗×上白石萌音W主演映画『夜明けのすべて』。三宅 唱監督が明かす撮影秘話
松村と上白石の信頼関係から生み出された自然体でステキなシーンの数々
ーーパニック障害を抱える山添くんとPMSに悩む藤沢さんを演じた松村くんと上白石さんとは、どのようなコミュニケーションをとり、一緒に役を作っていったのでしょう? 松村さんは初めてお会いした時点で、病気について調べたり、役に合わせてご自身の思いで髪を伸ばし始めていたこともあり、最初から山添くんに近い状態でいてくれて。お互いに持っている情報や意見を共有することを出発点にできたのは、とてもありがたかったです。発作のシーンを演じる身体的リスクについて勉強する時間があったり、2人だけで話す機会も多かったので、働き始めたときの葛藤を思い出して腹を割って話すこともできました。また、上白石さんとも、たくさんのことをお話ししました。僕のほうから聞きづらいことを察してくださったのか、女性の身体についての話題を自ら切り出してくれて。普段なかなかできないことですし、僕の人生にとっても有意義な経験でした。 撮影に入ってからも、2人とは現場で考えを共有しながらセリフの語尾まで一つひとつ確認して、じっくり作り上げることができた幸せな現場でしたね。2人は声もステキな俳優ですが、実は無言の表情も魅力的。相手の話を聞く表情の芝居が本当に素晴らしいので、1度目は話す側、2度目は聞く側と、できれば映画を2回見て楽しんでいただけたらうれしいです。 ーー互いの事情を知り、いつしか同志のような関係性になっていく山添くんと藤沢さん。2人のシーンを撮影する上で大切にしたことや現場で話し合ったこととは? 山添くんと藤沢さんは職場の同僚であり、恋人でもなく友達でもないけど、どこか同志のような気持ちが芽生えていく関係性。山添くんの部屋で2人きりで過ごす場面を恋愛として見せないようにするのは、やりがいがあると思った部分でもあります。松村さんと上白石さんは共演経験もあり、尊敬し合っていて、見ていて安心感がある。なので僕が決めるというよりは、実際に部屋の中で2人に「どこに座って話す?」と聞いて、思った場所に座ってもらって、そこから撮影を進めていきました。ポテトチップスを食べるカットでは、「この2人いいなぁ。絶対何もないね」なんて思ったりして、楽しかったですね。2人の信頼関係から生まれたシーンはほかにも多くありますし、自然な関係性が役にも表れていると思います。 それから、藤沢さんが山添くんの髪を切るシーンでは、実際に切ってもらうので本番は当然一発撮り。上白石さんは何度もマネキンで練習をしていましたが、とても緊張していました。いざ本番でハサミを入れたら、“ジョキジョキ~”とすごい音がして(笑)。観てくださる方には、その音も含めて楽しんでいただきたいです。
室井瞳子