「今は新入生が10人入ったらびっくり」…甲子園12度出場の強豪高校も直面する「野球部員減の荒波」
初代総理大臣の伊藤博文をはじめ、全国最多8人の総理大臣を輩出している“お国柄”だろうか。河口の説明の通り、山口県民はしばしば“保守的“といわれる。だが、近年は情報化が進み、以前よりも県外の強豪校への憧れを抱く選手も増え、県内の強豪中学硬式チームから、大阪桐蔭、浦和学院などの県外の強豪私立に進むケースも増えるという逆境も押し寄せる。 それでも、全盛期には及ばずとも「野球をやっていて、勉強もできる」中学生たちは入学してくる。しかし、かつてと気質の違いを感じる場面も増えた。 「この春、3年に進級する代のときかな。地元の中学校から野球経験者が5人くらい入学したんですよ。でも、野球部に入ったのは1人。あと4人は別の運動部に入っています。『なんでやらんのよ、一緒にやろうよ』と言うと、『野球は中学で燃え尽きました』って返ってきた。 子どもたちの言うことだから全部を信じてはいけないんだけど、同級生同士の会話だと、『いけるか、いけないかわからない甲子園を目指すために、しんどい練習を頑張るのは難しい』って言っていたみたいなんですね」 今の彼らにとって、出場が確約されていない甲子園を遮二無二目指すのは、“コスパ”や“タイパ”が悪いことなのかもしれない。それでも、河口は語気を強める。 「僕は今いる部員たちに『努力の見返りを求めるな』って伝えているんです。昭和チックかもしれませんけど。対価がなくても頑張れるのって、高校生ぐらいの年までだぞとも思うので。たしかに勉強と野球の両立は難しいし、中学生に話を聞いてもらっても、必ずと言っていいほど、『両立できますか?』と聞かれる。 僕は笑われるかもわからんけど、本気で甲子園を狙っているんです。だから練習は厳しいし、両立は間違いなく難しいとはっきり言う。勉強との両立が簡単にできますよ、それで甲子園も狙いましょうって、そんなに虫の良い話はない。でも、隙間時間を上手に活用して、両立する部員もいる。だから、やってほしいなって思うんですよね」 逆境でも熱を失わない河口に吹く逆風は、まだまだある。長らく山口には、岩国だけでなく、春夏19回の甲子園出場を誇る宇部商や、’63年のセンバツを制している下関商ら公立の有力校がひしめき、“公立王国”と呼ばれてきた。 だが、近年の大会成績に目を向けると、春こそ昨年に光が出場したものの、夏の出場権は’16年から高川学園、宇部鴻城、下関国際の私立3校が分け合う。県から3校が出場できる昨秋の中国大会では、この“私立3強”が初めてそろい踏みで出場した。この現状も河口の闘志を駆り立てる。 「僕は、春5回、夏5回甲子園に出させてもらって、『語呂合わせでゴーゴーでキリが良くてええじゃん』みたいにも言われるんです。でも、自分の中じゃ収まってなくて。僕が指導者となって最初の頃、最大の壁だったのが宇部商の玉国さん(光男、現在は宇部ボーイズ監督)でした。 玉国さんが高校野球の監督を終わられた今、その壁が私学に変わってるんですよ。3校以外にも早鞆や柳井学園も力がある。今、目の前にある壁を壊す。その思いがなくなったらもう(監督を)やめるときかなと思っています」