首位キープを春の珍事と言わせない!楽天岸が「攻めて」FA移籍後初勝利
この日の投球はストレートが59%を占めた。続いてチェンジアップの17%、スライダーの15%、カーブが9%という割合だった。西武時代の昨年の平均割合は、ストレートが51%。チャンジアップが17%、スライダーが18%で、カーブが14%である。いかにストレートで攻めたかがわかる明白なデータである。「攻める」という気持ちと同時にクレバーに雨の影響の少ないストレートを選択したとも考えられる。その分、目先をかわす岸の特徴ともいえる、大きな落差のカーブが少なかった。 6回には二死から鈴木に失投をライトスタンドへ運ばれた。だがソロアーチだから傷口は大きくない。続くダフィーには、この日、どららかといえば使わなかったカーブでカウントを整えた。 「カーブ(の出来)は微妙だったが最後の2,3球はカーブがよかったので、次につながったかな」 岸がニヤリとする。 出遅れた開幕戦で岸は次への布石を打った。エースと呼ばれる男らしい流儀である。 6回を終えると、与田投手コーチは、ベンチで岸に疲れを聞いた。103球。まだもう1イニングはいける球数だった。岸は「任せます」と、続投か否かを首脳陣に預けたが、本音は違った。 「任せますと言ったが疲れていた(笑)」 インフルエンザにかかって、発熱のため、5、6日、まったく体を動かさない期間があった。 「3日休めばただの人」と言われる世界である。初熱で関節も緩む。この日に間に合わせたが、体調はベストかと聞かれれば、そうではなかった。ぶっつけ本番である。 与田投手コーチも、そのあたりは見抜いていた。梨田監督も「ホームランを打たれたときに目で(交代を)訴えてきた」と見ていた。それにまだ始まったばかりである。病み上がりの細腕をここで無理させる意味はない。しかも、降り続けた雨でマウンドはぬかるみ思わぬ怪我につながるリスクもある。そしてなにより、ドラフト5位の森原康平(25)、ドラフト9位の左腕、高梨雄平(24)、ドラフト4位の菅原秀(23)の新人3人衆の台頭で、7、8、9回には勝利方程式がある。 梨田監督は交代を告げ、7回は、森原、8回は新外国人のハーマン、そして9回は松井裕が無失点でつなぎ、やっと開幕を迎えたもう一人のエースに白星をプレゼントした。 チームの期待と比例してのっかかる重圧。そしてインフルエンサで出遅れてしまった焦り……試合後、岸は、淡々とメディアの取材に対応したが、それらを乗り越えて第2の野球人生のスタートの試合で価値ある1勝を手にしたのだ。ひとつ吹っ切れ、次からはさらに岸ワールドが全開となるだろう。 1番に茂木、2番から外国人を3人並べ、5番に好調の銀次を擁する超攻撃的打線が“はまって”楽天の開幕ダッシュを支えているが、長いシーズンを考えると、やはり投手、中でも、先発投手である。計算が立つのは、則本一人だけだった先発陣に、もう一人通算勝利を104勝に増やした岸が加わった。もう楽天の首位キープは春の珍事では済まされなくなってきた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)