国内唯一の工場夜景電車、わずか9.2キロの富士・製紙工場地帯を走る
静岡県富士市内を走る岳南鉄道線。わずか9.2キロ、停車駅は10駅という、この小さな鉄道が今、国内唯一の工場夜景電車が走る鉄道として注目されつつある。 再評価される貨物列車 物流界に何が起きているのか?
製紙工場が集積している富士市。製紙工場だけでなくセメント工場や自動車部品工場も建ち並び、富士山をバックに煙突が林立する光景が市内各所で見られる。岳南鉄道線は、こうした工場群を縫うように走っている。昼間は1両編成、ラッシュ時の朝夕でも2両編成というミニ鉄道だ。 開業は戦後間もない昭和24(1949)年。吉原駅と岳南江尾駅の9.2キロを約20分かけて結ぶ。吉原駅は、JR東海道線・吉原駅に隣接しており、岳南鉄道線は沿線住民が市街地や東海道線に出る足として長く利用されてきた。しかし、鉄道としての役割はもう1つあった。「駅構内から工場へ側線が敷かれていて荷物の積み降ろしが行われた」と岳南電車株式会社課長の井上昌久さん。東海道線と富士市内の工場を結ぶ貨物輸送の役割を長く担ってきたのだ。
岳南鉄道の貨物輸送量は経済成長とともに増大し、1969(昭和44)年には年間100万トンにまで達したという。富士市内の工場群と鉄道幹線を結ぶ貨物輸送交通として日本の経済成長を地道に支えてきた鉄道なのだ。しかし、バブル経済崩壊、リーマンショックを経て世界的な低経済成長時代を迎え、一方で輸送手段が多様化する中、2012(平成24)年3月ついに貨物輸送は終焉を迎えた。 事業の核を失い存続が危ぶまれたが、廃線にならなかったのは、住民の足として市が資金援助を行うことを決めたことが大きい。経営も岳南鉄道株式会社から鉄道事業を切り離し、新たに岳南電車株式会社として13(平成25)年4月に再スタートを切った。
そんな岳南電車が、工場夜景電車を運行する契機になったのが、富士市の全国工場夜景都市加盟だった。全国工場夜景都市は、13年に室蘭、川崎、四日市、北九州の4市が全国的な工場夜景鑑賞ブームを受けて、観光資源として連携しようと全国工場夜景都市サミットを開催したことに始まる。富士市は翌年度よりオブザーバー参加し、昨年、正式加盟した。また、2014(平成26)年7月には岳南電車の駅舎など施設自体が、民間団体より日本夜景遺産に認定され、夜景を楽しめる鉄道、とのイメージが夜景ファンや鉄道ファンの間に広まりつつある。 工場夜景電車とは具体的にどのような電車なのだろうか?「2両編成の後方車両の室内を消灯して走ります。夜景についてのガイド的な車内アナウンスもあります」と井上さん。乗客が車窓から夜景を楽しめるように車内照明を消して走るだけのシンプルなものだ。