悪びれることなくホテルから銀の食器を何度も……小池百合子都知事、知られざるカイロ時代の素顔
ジャン・ヴァルジャンは罪の意識に耐え切れずに告白した
“盗んだ銀の食器”といえば、フランスの作家、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に記した『レ・ミゼラブル』である。 物語の冒頭は、パン一切れを盗んだ罪で投獄されたジャン・ヴァルジャンが、19年ぶりに刑務所を出て、街を彷徨っていたところから始まる。宿に泊まろうにも何度も断られ続けて、唯一泊めてくれたのがカトリックの司教だった。司教は身の上を聞いた上で、食事を振る舞う。食卓には銀の食器が並べてあった。 だがジャン・ヴァルジャンは、司教が寝静まった夜、戸棚から銀の食器とスプーンを盗んで逃げ出してしまう。まもなく憲兵に捕まり、ジャン・ヴァルジャンが「貰ったものだ」と主張したため、司教のところへ連れ戻された。すると司教は憲兵に、食器はあげたものだと語り、ジャン・ヴァルジャンに対してこう言った。 「私はあなたに会えて嬉しい。ところでどうしなすった、私はあなたに燭台も上げたのだが。あれもやっぱり銀で、二百フランぐらいにはなるでしょう。なぜあれも食器といっしょに持って行きなさらなかった?」(『レ・ミゼラブル(一)』岩波文庫、豊島与志雄訳より) これを聞いた憲兵は、ジャン・ヴァルジャンを釈放せざるを得なかった。 司教の優しさに触れたジャン・ヴァルジャンは、その後、名前を変えてマドレーヌと名乗り、事業で成功する。貧しい人々を助け、そして市長の座に上り詰めた。 だが、ジャベール警部に「市長は実はジャン・ヴァルジャンではないか」と疑われ、追われ続ける。そしてある日、別人が自分と間違えられてジャベール警部に逮捕されてしまった。別人が自分の代わりに裁判にかけられるのを見て、罪の意識に耐え切れずに遂に、「私がジャン・ヴァルジャンだ」と告白したのである。
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 電子版オリジナル