34年前の“主役”タイソンが「凶悪」と認めた怪物は熱狂を起こせるか 井上尚弥の夢舞台を楽しもう
タイソンが彩った夢舞台
タイソン氏の口から飛び出した言葉に目を丸くした。井上が両国国技館でのアラン・ディパエン(タイ)戦を控えた21年12月だった。タイソン氏は自身のポッドキャスト番組『Hot Boxing』で「『モンスター』と呼ばれている若いボクサーを知ってるか?」と自ら切り出し、こう続けたのである。 「日本人なんだ。『モンスター』と呼ばれている。チェックしてくれ。彼はとんでもない奴だ。お前はヤバい奴を見ることになるぞ。彼はマニー・パッキャオ以上だ。それか同じくらい良い。あいつは凶悪で、モンスターなんだ。どんなやつも簡単にやっつける」 圧倒的な才覚で一時代を築いた百戦錬磨のレジェンドが「ヤバい奴」と認めたというニュースは、当時に日本でも小さくない話題になったことを記憶している。 その井上が、他でもないタイソンぶりに東京ドームに立つボクサーになるわけである。国内外からの注目が集まるのは必然なのかもしれない。 国外からの関心は関係者の顔ぶれを見ても、ひしひしと伝わってくる。井上のプロモートを大橋ジムと共同で行う米興行大手『Top Rank』からは、92歳になる傑物ボブ・アラム会長をはじめ、重役、広報、SNS担当など大勢のスタッフが帯同。さらには殿堂入りを果たしているプロモーターのルー・ディベラ氏も来日し、その姿を見せている。 すでにチケットも完売寸前だ。アラム会長は「観戦チケットの売り上げはすでに2000万ドル(約30億6000万円)を超えている」と発言し、プロモートに携わった帝拳ジムの本田明彦会長も「最大のイベントですよ。間違いなく」と断言。国内の期待も十分だ。 5日の会見で意気込みを問われ、「今さら意気込みなんか今聞いてどうすんですか! やるしかないですよ」と笑みを見せた井上。かつてタイソンが彩った夢舞台で「モンスター」は、熱狂を再来させられるか。その一挙手一投足を楽しみたい。 [文/取材:羽澄凜太郎]