偉業の上書き(9月21日)
ノートをつけろ―。野球を始めた小学生の息子に、チームの監督だった父は命じた。「評価と助言」、「反省と課題」が記された「交換日記」が始まった(佐々木亨著「道ひらく、海わたる」)▼息子とは米大リーグの大谷翔平選手。父徹さんは事あるごとに、文章を三つ書いた。〈大きな声を出して、元気よくプレーする〉〈キャッチボールを一生懸命に練習する〉〈一生懸命に走る〉。押しも押されもせぬ看板選手に成長した後も、人生最初の指導者から贈られた叱咤[しった]激励[げきれい]を忘れない。「とりわけ全力疾走は大きな意味がある」と、インタビューに答えている▼前人未到の大記録達成は圧巻と言うほかない。2盗塁に3打席連続ホームランで、「50―50」を一気に超えた。51本塁打、51盗塁は、いずれも自己シーズン最多を更新しての金字塔。ドジャースに移籍した今春、元通訳のごたごたに巻き込まれたが、心は折れはしなかった。交換日記は強靱[きょうじん]な精神力も育んだのだろう▼チームはプレーオフ進出を決めた。舞台はまだまだ続く。来季、マウンドに復帰すれば、投、打、走の「三刀流」だ。不世出のアスリートはこの先、一体どんな偉業を上書きしてゆくのか。<2024・9・21>