福島県産マッシュルーム、生産復活 低コストの栽培技術開発 田村市のキノコ農家安田さん
東京電力福島第1原発事故で途絶えた福島県産マッシュルームの生産を田村市のキノコ農家安田悟さん(45)=移ケ茸(うつしがたけ)代表=が復活させた。元自動車部品メーカー社員の経験を生かして低コストの栽培技術を開発し、収量も着実に増加。いわき市のスパリゾートハワイアンズでマッシュルームを使った料理の提供が始まるなど販路も広がっている。 安田さんは19年間勤務した会社を退職して2020(令和2)年に故郷の田村市で就農した。国産シェアの低いキクラゲの生産が軌道に乗り始めた頃、取引先から「マッシュルームないか」と相談されて興味を持った。 ■前職の経験生かす ハワイアンズなどで提供 安田さんによると、県内で唯一生産していた鏡石町の農家が原発事故の影響で生産をやめた。マッシュルームの安定生産には温度・湿度を管理できる建物や機器など初期投資に5億円ほどかかる場合もあり、参入ハードルが極めて高い。自動車業界で合理化をたたき込まれた安田さんはコストが減らせる独自の栽培技術開発に乗り出した。福島イノベーション・コースト構想推進機構の補助金を受け、一般的なビニールハウスの中に断熱材で仕切った栽培用の部屋を設けた。温度管理もエアコンではなく沢水などを使ったヒートポンプを活用して電気代を節減した。
現在では毎月200~300キロを生産し、県内や都内の飲食店、直売所に納品している。スパリゾートハワイアンズの宿泊者向けレストラン「ラティオ」では、9月から安田さんが生産したマッシュルームを使った料理を提供している。料理長の渡辺忠充さん(50)は「安田さんのマッシュルームは身が詰まっていて香りが良い。県外のお客様にも県産食材は喜ばれる」と太鼓判を押す。 安田さんは低コストの生産技術をパッケージ化し、小規模事業者らに販売する構想を描く。「生産者仲間が増えれば、需要も生まれる」。県産マッシュルームの裾野をさらに広げていく考えだ。