『ANLIFE』かわいい生きもの進化シミュレーターは人工生命への憧れから生まれた。これは神々の遊びであり、ゲーミング進化論である【TGS2024】
2024年9月26日~29日に開催された東京ゲームショウ2024。会場内のインディーゲームコーナーを歩いていて、ふしぎなゲームに出会った。いや、ゲームかどうかもよくわからない。その名を『ANLIFE: Motion-Learning Life Evolution』という。 【記事の画像(8枚)を見る】 画面内にはキューブを複数くっつけたような生物(?)が動き回っていた。エサを置くと食べにくる。かわいい。開発者さんによると“生命体の進化シミュレーター”のようなものらしい。 プレイヤーは要するに神様だ。生命体は与えられた状況を学習し、エサを配置すると勝手に食べて成長。たとえばいきなり水で満たした場合、最初はもぞもぞしているだけなのに、時間経過に応じて適応し、魚のように泳ぐようになる。そして世代を経るごとに環境に応じた進化を遂げていく。 生命の進化には水が必要だからといって急に惑星を海で覆ったりすると、水中に適した進化を遂げてない個体は溺死する。自然とはかくも厳しいものである。 夜になると生命体は眠るが、近くにエサを置くと起きる。かわいい。 地形や気候、重力、水分量といった惑星の環境を変え、生命体たちの行く末を見守るのがプレイヤーの役割なのだが、生命体への接し方は自由だ。徐々にアンロックされていくスキルにはプレイスタイルや趣味嗜好が反映される。 生命体に優しく接すると惑星を大きくしたり自動給餌器を設置するスキルを使えるように。逆に殺しまると隕石を落としたり炎で燃やしたり、過酷な状況に追い込みやすくなる。ひどい神様である。 部屋分けするように地面を隆起させると異なる環境を作り出せる。微妙な差を設けて、それぞれの進化を見守るのもおもしろい。 個体ごとに遺伝子を持っていて、広いところで生存競争させると強くなる一方、狭い部屋で潤沢にエサを与えると甘ったれたやつになる。キャラを強化していくゲームだったら前者が正解だが、ゆるゆるに甘やかすとまったく想定しない動きをすることもあるらしい。 あらゆる動物は生きるために過酷な環境に適応し、最適化された動きをするものだ。では、最適化しなくても生きられたらどうなるのか。それアニメかマンガで悪の科学者がやるやつだろう。 スライダーで気温や重力を変更。気温を大幅に下げると体力のある個体しか生き残れないのでエリートを選別できる。こえー。 進化系統図。子どもが生まれると、本体にくっつくキューブが増えて、それが脚や関節の役目を果たしたりする。 『ANLIFE: Motion-Learning Life Evolution』には学習アルゴリズムが組み込まれており、進化の道筋は開発者自身も把握していない。些細なきっかけで思いもよらない変異を遂げるだなんて、ほんとに生命みたいだ。 開発者はなぜ本作を作ったのか。きっかけは1990年代にカール・シムズが行った人工生命の研究だという。仮想空間の中で、エサを取れた個体が生き残って取れなかったら死んでいく自然淘汰と学習の仕組みを入れたら、魚みたいな何かが生まれた。細かいプログラムを設定していないのに、コンピューターが地球と同じように機能している。 この結果に衝撃を受け、もしかしたら地球じゃなくても生命は存在し得るのではというSFチックな魅力にハマってしまった。自分でもプログラムを組むようになり、「かわいいんですよね。10何年も作ってますけど、動いてる姿はいつ見てもホッとします」と笑う。 かわいいのでエサをばらまいて甘やかしたくなるが、たまに過酷な環境に追い込む。かわいい子には旅をさせよ。 きっと彼を突き動かしているのは「生命はかわいい」というプリミティブな本能だ。もともとゲームを作りたかったわけではなく、自身が考える人工生命の研究像と世の中の接点を探ったら、自然とゲーム風に行きついた。 『ANLIFE: Motion-Learning Life Evolution』はいまの時代に合った作品なのだと思う。アウトプット先としてちょうどいいのがたまたまゲームだっただけで、世が世ならもう少しアート的になっていた可能性もある。 僕は本能が発露したようなインディーゲームが好きなのだ。作家性を前面に出し、好きなものを好きなように作ってほしい。大手メーカーとは異なる情念を見せてくれ。