『Ghost of Tsushima』PC版好調は「デメリットの少なさ」が一因に? ふくらむ“門戸開放”加速への期待
5月17日、『Ghost of Tsushima Director's Cut』(以下、DC版)がPC(Steam/Epic Games Store)に対応した。 【画像】待ち望まれていた『Ghost of Tsushima』PC版のスクリーンショット 長く待ち望まれてきた同タイトルのPC版のリリース。高評価へとつながった一因を分析しつつ、今後PCへの対応が期待されるタイトルについて考える。 ■中世日本を舞台にした人気アクションADV『Ghost of Tsushima』がPCに対応 『Ghost of Tsushima』は、「INFAMOUS」シリーズなどで知られるアメリカのディベロッパー・Sucker Punch Productionsが開発を、ソニー・インタラクティブエンターテインメント(以下、SIE)が発売を手掛けたアクションアドベンチャーだ。舞台となっているのは十三世紀後半、文永という元号の時代。主人公の境井仁が所属する対馬の武士団は、日本侵攻のために上陸したコトゥン・ハーン率いるモンゴル帝国の軍勢に壊滅させられた。かろうじて難を逃れた彼は、侍の道に反したとしても対馬の民を守ろうと決意し、冥府から蘇った者「冥人(くろうど)」として元軍に戦いを挑むのだった。 同タイトルは、2020年7月にPlayStation 4で発売を迎えた。翌年には、新規シナリオなどを盛り込んだ完全版『Ghost of Tsushima Director's Cut』もリリースとなっている。公表されている全世界累計販売数は973万本。これは2022年7月の数字であるため、現在はさらに大きく売上を伸ばしているものと考えられる。発売年には「The Game Awards 2020」において、「Best Art Direction」「Player's Voice」の2部門を受賞した。2021年には、「マトリックス」シリーズ、「ジョン・ウィック」シリーズへの参加で知られる俳優/監督のチャド・スタエルスキ氏によって映画化が発表されている。 ■仕様との関連の薄さが好調の一因に このようにして成功を掴み取ってきた『Ghost of Tsushima』。その実績を踏まえると、オリジナル版のリリースから約4年、完全版のリリースからでも約3年が経過した現在となってようやくPC版が発売に至ったことは、遅すぎるマルチプラットフォーム化だと言える。なぜPCへの対応が遅れたのか。理由は、パブリッシャーにSIEがクレジットされているからだろう。版権を持つ発売元が人気タイトルを自身の展開するプラットフォームで独占したいと考えるのは極めて自然なことだ。他社製を含むさまざまなハードで発売すれば、当然ハードそのものの訴求力や、自社ハードでの売上(さらにはそこから得られる発売元としての利益)は減少していく。このことは、「スーパーマリオ」シリーズに代表される任天堂IPの独占展開、Microsoftによるアクティビジョン・ブリザード買収をめぐる騒動といった一連の業界動向にも裏付けられている。 そのような経緯もあり、長く待ち望まれながらもなかなか叶わなかった『Ghost of Tsushima』のマルチプラットフォーム化。満を持してのPC版の発売は、ある意味で予想どおりのインパクトをマーケットに残しつつある。 Steamプラットフォームに関連するデータベース・SteamDBによると、『Ghost of Tsushima Director's Cut』はリリース直後から継続して、6万前後の同時接続プレイヤー数を推移。発売から3日後(※UTC基準)の5月19日19時には、最高点となる77,154を記録している。この数字は、SIEがパブリッシャーを務めるシングルプレイヤー作品で歴代1位となるもの。『God of War』や『Marvel’s Spider-Man』といった人気作品を抑えての戴冠であることからは、『Ghost of Tsushima』がいかに愛されているタイトルであるか、PC版の発売がいかに熱望されていたかを汲み取れる。その後はウィークデーだったこともあり、減少傾向が続いたが、リリースから10日近くが経過してもなお高い水準をキープしており、5月25日13時には再度5万を突破した。Steamプラットフォーム上におけるレビューでは、約13,000件のうちの89%が「好評」とし、上から2番目のステータスである「非常に好評」へと分類されている。 そうした好調の一因と考えられるのが、『Ghost of Tsushima』のゲーム性とPC版の仕様におけるデメリットの関連の薄さだ。SIEがパブリッシャーを務めるタイトルのPC版では特にマルチプレイ時において、同社のネットワークサービス・PlayStation Network(以下、PSN)のアカウントとの連携が必要となるケースが増えており、同工程を煩わしいと考えるPCゲーマーにとっては、関連するすべての恩恵を享受しにくい状況が生まれつつある。 直近では、おなじくSIEがパブリッシャーを務める人気タイトル『HELLDIVERS 2』のPC版において、マルチプレイに関する仕様変更が界隈の混乱を招く出来事があった。同タイトルでは当初、マルチプレイをする場合であってもPSNアカウントとの連携が不必要とされていたが、リリースから約3か月後の5月3日にSIEから“方針転換”のアナウンスが行われ、来る6月4日に義務化される予定となっていた(世論の反発を受け、その後見送りに)。 『HELLDIVERS 2』は協力型のマルチプレイを前提としている。PC版の購入者のなかには、居住地の問題でPSNのアカウントを作成できないプレイヤーもおり、後出しでの仕様変更によって、すでに支払いを終えたコンテンツを満足に遊べなくなる可能性があった。 『Ghost of Tsushima』PC版もまた例に漏れず、マルチプレイ時にはPSNアカウントとの連携が必要とされているが、同タイトルはシングルプレイを基本としており、誰もがコンテンツの大半を楽しむことができる。このような事情も好調にはプラスに作用したのではないか。 ■今後PCへの対応が期待されるファーストパーティータイトルは? 「マルチプラットフォーム化が待望されているSIE発売タイトル」の上位だったと言っても過言ではない『Ghost of Tsushima』がPCに対応し、さらに好評を得ていることで、今後、その門戸がさらに開放されていく可能性もあるだろう。実際にSIEは2022年、同年度の事業説明会において、2025年には自社タイトルの約半数をPCとモバイルで展開する見込みだと発表している。 ソウルライクのジャンルがトレンド化するきっかけとなった『Demon's Souls』や、その文脈上にある派生作品の『Bloodborne』、ドラマ化も好評だったシリーズの第2作『The Last of Us Part II』、先に紹介した『God of War』の続編『God of War Ragnarök』、人気レースゲームの『グランツーリスモ7』などは、期待されているタイトルの一例だ。 あなたはどのようなタイトルのPCへの対応を望むだろうか。『Ghost of Tsushima』PC版の発売、高評価の獲得をきっかけに、そのようなテーマについて考えてみるのも一興なのかもしれない。
結木千尋