消費者金融に「異変」 ポストコロナで借り入れ増【けいざい百景】
消費者金融業界で、個人向けの貸し出しが増えている。コロナ禍で消費は一時落ち込んだものの、感染状況が一服したことで、抑えられていた需要が急拡大する「リベンジ消費」が広がったためだ。物価高で生活費が圧迫されていることも、利用増の背景にあるとみられる。ただ、買い物や旅行、娯楽などでの利用が増える中、借り入れを巡って、ある「異変」が起きている。(時事通信経済部 栄野敦雄) 【図解】実質GDP成長率の推移 ◆「Z世代」で増加 日本貸金業協会によると、昨年末の個人向けの無担保貸付残高(住宅ローン向けを除く)は、前年末比8.1%増の2兆5250億円だった。コロナ禍で初めて緊急事態宣言が出された2020年4月以降、貸付残高は減少傾向をたどったが、感染状況が落ち着くにつれ資金需要は回復。21年夏にはプラスに転じ、その後増加幅が拡大してきた。 リベンジ消費の広がりに伴い、新規の利用者が増加。特に「Z世代」をはじめとする若年層が目立っているという。とりわけ業界関係者が驚きを持って実感しているのが、若年層の借り入れに対する意識の変化だ。 「Z世代を中心に、借金に対する抵抗感が小さくなっている」(消費者金融大手幹部)。 近年、新規利用者では、スマートフォンアプリなどインターネットを経由した借り入れが大半を占める。審査時間は短縮され、申し込みから借り入れまで基本的には店舗に足を運ぶ必要もないので、心理面や手続きでの障壁は低くなった。借り過ぎへの懸念は根強いものの、関係者は「『サラ金』のイメージが薄れているのか、心理的なハードルは下がっている」と語る。 ◆社会問題繰り返す 1960年ごろ誕生した消費者金融業界は、多重債務や過剰取り立てなどが大きな社会問題となり、規制強化が繰り返されてきた。「人の信用」を担保にした消費者金融は70年代以降、サラリーマンなどへの貸付残高を急速に伸ばして規模を拡大。サラ金問題に発展した。 当時の上限金利は年109.5%。審査基準を緩めて高金利の貸し付けを進めた結果、過剰債務に陥って返済に苦しむ人が増えた。行き過ぎた取り立てに追い込まれ、自殺者が増加した。 サラ金問題を受け、上限金利は83年の改正出資法で引き下げられた。その後も、中小企業向けの高金利での融資や強引な取り立てが横行した「商工ローン問題」など社会問題が続き、そのたびに規制が強化された。2010年に上限金利は年20%となった。 規制強化により利益が減少したことで、83年に全国23万あった貸金業者に淘汰の波が押し寄せた。加えて、最高裁が06年、利息制限法と出資法の定める上限金利の差である「グレーゾーン金利」を認めない判決を出したことで、債務者らから過払い金の返還請求が殺到した。 返還額に経営を圧迫された大手のアイフルは09年、私的整理の一種である「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)」を利用しての経営再建に踏み切った。同社は15年に銀行団から返済を猶予されていた融資を完済し、銀行団からの同社への金融支援は終了した。業界最大手の武富士は10年に会社更生法の適用を申請し、経営破綻した。 大手のアコムやプロミス(現SMBCコンシューマーファイナンス)は、それぞれ親密な関係にあったメガバンクグループから出資を受けて生き残りを図った。金融庁によると、貸金業者は23年3月末に約1500まで減少した。