みんなから愛された「康太さん」の記憶 当日乗り替わりのマイルCS、友道厩舎の追い切り…合同葬で伝えた別れの言葉
2023年のマイルCSで藤岡康太騎手を背に初G1制覇を飾ったナミュール
秋競馬も佳境に入り、今週はG1マイルチャンピオンシップ(芝1600メートル)が京都競馬場で発走となる。レース当日、まさかの乗り替わりから、ファンをあっと驚かせたナミュールのG1初勝利から1年。調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る企画「調教捜査官の回顧録」を寄稿する競馬ライターの井内利彰氏にとって、当時の鞍上だった藤岡康太さんとの思い出は数知れない。衝撃の戴冠劇から4か月後、不慮の事故により35歳の若さで突然の旅立ち。誰からも愛された「康太さん」に想いを馳せた。 【動画】「ガチで泣きました」 天国の藤岡康太へ、鞍上の叫びに感動の声 ◇ ◇ ◇ 2023年11月19日。この日はビギナーズ講師の仕事をするため東京競馬場にいましたが、仕事の合間にライアン・ムーア騎手が落馬負傷したことを知りました。真っ先に気になったのが、マイルCSでナミュールに誰が騎乗するのか、ということでした。 私のナミュール評価は無印。今回の調教内容は決して悪くないと思っていましたが、過去、レース間隔が詰まったローテーションでは結果を出すことができていないということが気になり、富士Sから中3週の今回は評価することができませんでした。ゆえに誰が乗るにせよ、好走しないでほしいという気持ちがあったわけで、そこに藤岡康太騎手が決まった時はある意味安心しました。 理由は世界No.1と評されるムーア騎手から、2009年にNHKマイルCを勝って以来、G1を勝っていない藤岡康太騎手だから。この乗り替わりで単勝オッズがぐんぐんと上昇したことが競馬ファンも同じ心理だったんだろうと推測できます。 しかし、レースでは見事な騎乗で差し切り勝利。勝利インタビューでは「レース映像を見て(富士Sで騎乗経験があり勝利に導いた)モレイラ騎手からアドバイスをもらった」というのだから、レース当日の乗り替わりでもできる限りのことを実行するのは「康太さんらしいな」と思いました。 「康太さん」と書かせてもらうのは、普段はこのように呼ばせてもらっていたから。プライベートでお付き合いすることはありませんでしたが、懇意していただいている友道厩舎の追い切りに騎乗する機会が多く、その追い切りの内容を聞く時に「康太さん!」と声をかけさせてもらっていました。 マカヒキ、ワグネリアン、ドウデュース。友道厩舎のダービー馬3頭、すべて追い切りで跨ったことがあるのは康太さんだけじゃないかな。マカヒキには京都大賞典で騎乗して勝利に導いています。