注射いらずのインフルエンザワクチン「フルミスト」の効果 10月から接種スタート
国内初となる鼻にスプレーするインフルエンザワクチン「フルミスト(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン)」の接種が10月から始まった。注射型ワクチンのような痛みがなく、注射が苦手な子供に対しても負担が少なくて済む。どんなワクチンなのか? 「五良会クリニック白金高輪」理事長の五藤良将氏に聞いた。 コロナの「再感染」「再々感染」が続出しているワケ…やはり、風邪と区別がつきにくい ■対象は2~19歳未満 従来の注射型ワクチン(不活化ワクチン)は、血液中にIgG抗体と呼ばれる免疫物質を作り、全身にウイルスが拡散しないよう抑える働きがある。ただ、病原体の多くは粘膜から侵入するのに、IgG抗体は鼻腔粘膜には発現しない。そのため、感染自体を予防するのは難しく、あくまでも重症化を予防する目的で行われていた。 「今回、薬事承認されたフルミストは、弱毒化したインフルエンザウイルスを鼻腔粘膜に直接噴霧する生ワクチンです。インフルエンザウイルスに感染することで、血中にIgG抗体が作られるだけでなく、ウイルスの増殖を抑えて体内への侵入を防ぐ『IgA抗体』が鼻腔粘膜にも作られるので、重症化予防だけでなく、感染そのものを阻止する効果が高いといわれています」 国内で小児を対象に行われた臨床試験では、フルミストを接種した群は打っていない群と比較して、インフルエンザを発症するリスクが28.8%低下したと分かった。とりわけインフルエンザに感染した経験がない、あるいは大人に比べて感染回数が少ない小児は、フルミストの接種でIgA抗体がつきやすく感染予防に効果的なことから、今回は接種対象年齢が2~19歳未満に限定された。 フルミストは2003年にアメリカで認可され、現在、36の国と地域で承認されている。 「安全性と効果の高さから、日本でも10年以上前から医師が個人輸入して認可外接種を行うクリニックは少なくありませんでした。ただ、認可外ワクチンなため重篤な副作用が生じた際に『副作用被害救済制度』を受けられなかった。今回の薬事承認を受け、より多くのお子さんへ安心してお届けできるようになりました」 ■1シーズン1回の接種でOK フルミストの接種はいたって簡単だ。両側の鼻に専用のスプレーを使って0.1㏄ずつ噴射するだけ。接種後に鼻をすする必要はなく、万が一、接種直後にくしゃみをしたり、はなをかんだり、喉へ流れ落ちた液体をのみ込んでも問題ない。 注射型ワクチンの場合、12歳未満の小児では1シーズンにつき2回の接種が推奨され、ワクチンの効果の持続期間は5カ月ほどだが、フルミストは1回の接種で済むだけでなく、約1年の効果があるという。五良会クリニック白金高輪では、1回9000円(税込み)で完全予約制で行われている。 「接種後の副反応として、鼻水や鼻づまり、咳、頭痛などが報告されています。また生ワクチンであるフルミストは弱毒化したインフルエンザウイルスが含まれるので、妊娠中の方、HIV感染者や抗がん剤治療中などで免疫力が低下している方のほか、周囲に免疫不全者がいる人に対しては接種できないケースがあります。事前に医師に確認するようにしてください」 気になるのが大人の接種だ。最も早くフルミストが認可されたアメリカでは、接種適応年齢が49歳以下と、日本と比べて年齢が幅広く設定されている。 「認可から20年以上の歴史があるアメリカでは、使用実績の多さから小児だけでなく大人に対する効果や安全性が確認されています。しかし、日本で行われた第Ⅲ相試験で効果と安全性が確認されたのは小児・青年期のみで、成人に対する長期的なデータは集計されていません。今後、臨床データが蓄積されれば、アメリカのように日本でも成人に対する適応拡大が期待できるかもしれません」 現在、一部のクリニックでは、49歳以下に任意接種を行っているという。注射の痛みからインフルエンザワクチン接種をためらっているなら、医師に相談したうえで検討してはどうか。