ユネスコ無形文化遺産へ「新たなチャンス」 伝統的酒造り保存会長
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に、日本酒など「伝統的酒造り 日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」が登録される見通しとなった。登録へ向け活動してきたのが、酒造関係者でつくる「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」だ。会長を務める小西酒造(兵庫県伊丹市)の小西新右衛門社長に、登録の意義などを聞いた。【聞き手・植田憲尚】 ――伝統的酒造りを無形文化遺産に登録するよう、ユネスコの評価機関が勧告した。 ◆非常にありがたい。日本酒、焼酎、泡盛、本みりんなど、こうじ菌を使った伝統的酒造りは、日本の気候風土から生まれた世界に類を見ないものだ。登録される見通しなのは、酒そのものではなく、酒を造る技術で、会としてもそこを守るための活動をしてきた。 酒造りや文化を知ってもらうシンポジウムのほか、各地のベテラン杜氏(とうじ)に聞き取り調査をした。調査では現場の人間でもなかなか聞けない話を聞けた。伝統的酒造りを保存していく意味では、我々にも、将来の方々にも役立つ。 ――酒類の多様化やアルコール離れもあり、伝統的酒類も国内消費が減っている。 ◆日本酒の場合、消費を支えていたヘビーユーザー世代が高齢化で減っていることが一因だ。その世代が「10」の量を飲んでいて、今の若い方は「1」しか飲んでいないとしても、それが10人になるようにするのが大事だ。次の世代に酒造りを継いでもらうためにも、「やり方によってはおもしろい市場があるんだ」と思える世界をいかに造るかにかかっている。 そういう意味で、今回の無形文化遺産登録は新たなスタートを切るチャンスになると考えている。 ――今後の展開は。 ◆フランスではソムリエなどから日本酒に関心を持ってもらっている。無形文化遺産登録で、インバウンド(訪日外国人)や海外輸出関係者の認知度も広がるだろう。会としては海外でのイベント開催を通じてPRにより力を入れていきたい。こうじ菌は日本独特なので、世界の方々に理解してもらうためにはよほど努力しないといけない。酒自体の価値を高める努力をもっとしていく必要があるだろう。 日本国内では、ワインなどと料理との相性を楽しむ若い人は増えているが、日本酒との組み合わせとなると認知度は低く、国内でトレンドになるにはまだ難しい。海外で一定の評価を得られるようになれば、日本の消費者にも注目してもらえるようになるのではないか。 ――小西酒造は室町時代の1550年(天文19年)創業で、江戸時代に当時随一の銘醸地だった伊丹がその地位を近接する灘に明け渡した後も生き残ってきた。先人から学ぶことは。 ◆勝手な見方かも知れないが、時代を超えて通じることが本質的なものじゃないかと思っている。弊社の史料によると、江戸の米相場を知るため飛脚を通じて速やかに情報を得ていた。また江戸に酒問屋を独自で造り、酒を運ぶための船問屋も経営していた。今で言う情報戦、マーケティング、物流戦略で、今でも通用することをやってきたから、これだけ続けさせていただいたのではないだろうか。歴史や伝統を勉強することが業界の未来につながるよう、無形文化遺産登録がその一つのきっかけになればと思う。