三上博史版ヘドウィグが、20年ぶりにライブ・バージョンで復活!
ジョン・キャメロン・ミッチェルの作・主演で1997年に初演され、熱狂的なファンから世界中で愛されているミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。愛と自由を得るために性転換手術するも、手術ミスによりアングリーインチ(怒りの1インチ)を残されてしまったヘドウィグが、自らの生い立ちや心情を激しく、そして切なく一人語りしていくミュージカルだ。日本初演は2004年。ヘドウィグが憑依したかのような三上博史の圧倒的なパフォーマンスに、劇場は連日熱狂に包まれた。あの興奮のステージが20年ぶりに復活! ライブ・バージョンで再びヘドウィグとしてステージに立つ三上に、現在の心境を語ってもらった。 【全ての写真】ライブ・バージョンで再びヘドウィグとしてステージに立つ三上博史 ――2004年、05年と上演された伝説の舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が、『HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】』として帰ってきます。本企画実現の経緯を教えてください。 20周年記念としてお話をいただいた時、ふと昔のことに思いを巡らせました。寺山修司没後20年記念公演『青ひげ公の城』(03年)に出た時、こんなにも自由に泳げる場所があるんだと驚いて。演劇へと傾倒していったころ、暮らしていたアメリカ西海岸でたまたまヘドウィグを観たんです。何の予備知識もありませんでしたが、音楽だけはすごく印象に残って。その後紆余曲折あり、なぜか僕がヘドウィグをやることに。本当に泳ぐようにやれましたし、手応えも大きかった。あれから20年。じゃあ今の僕になにが出来るだろうと思った時、待ってくれている人たちをがっかりさせたくはないけれど、20周年のお祭りだから、曲をご披露するだけでもいいんじゃないかと。それでライブ・バージョンになったわけですが、結果的にあの音楽をやりたいと思った、最初の気持ちに戻った感じですね。 ――ライブ・バージョンでの上演とのことですが、いわゆるヘドウィグの扮装はされないのでしょうか? さぁ、そこですよね(笑)。今回に関しては皆さんがなにを求めているのか、なにが見たいのか、もう手に取るようにわかっちゃう。だから僕、三上博史がヘドウィグを歌うっていうシンプルなかたちでもいいのかもしれないけど、それだと皆さん許さないだろうと。だから扮装はします! しかも進化して。ただ今回芝居がないので、やり方としてはいろいろ考えているところです。だってヘドウィグの格好をしながらアドリブでMCなんて、とてもじゃないけど僕には出来ない。だから(作の)ジョン・キャメロン・ミッチェルにメールしたんです。あれから20年経って、今ヘドウィグってどうなっているかな?と。そうしたら「中西部あたりの田舎町で大学の客員教授かなんかになって、“愛”について教えているんじゃない?」って返ってきたから、それは面白い、じゃあ書いてよって言ったら、「時間がない」って断られちゃって(笑)。残念ながらその話はなくなっちゃいました。 ――楽曲の表現に関しては、ヘドウィグとしてのものになるのでしょうか? それとも三上博史としてのものに? まだ固まってはいませんが、どうしたって僕の中には『Wig In A Box』(※落ち込んだヘドウィグがウィッグをつけたり化粧をしたりして気分を上げる劇中のナンバー)とかの世界はないわけですよ。だからそれはもう完全にヘド様で歌うしかない。でも冒頭の『Tear Me Down』っていうナンバーには「壁を壊しなさい」という歌詞がありますが、今それがどんな壁かと言ったら、世界中にあるもう取り付く島もないほどの分断。それをきっとヘド様は壊したいだろうし、僕自身も感じることで。だからそう感じている人たちが、少しでも呼吸しやすいような空間を作れたらいいなとは思います。 ――プラトンの『饗宴』をベースにした『The Origin Of Love』も、全方位に向けられた愛の歌ですね。 そうですね。でもヘドウィグの格好をした三上博史が、「プラトンはね」と言ったところで「うーん?」となるはずなんですよね。ただそれを口当たりよく、“私の片割れ探し”みたいに持っていかれちゃうのも本意ではない。というのも僕はヘドウィグって、メンタルをやられた、ただの妄想女の話だと解釈することもできると思っていて。映画はこういう物語として具体的に提示してしまうけど、舞台の場合は全部彼女の妄想だったって言えちゃうところがすごく好き。ただだからこそ純粋であり、そこには一点の疑いもないと思っています。 ――今ヘドウィグを求めている人たちに対し、三上さんからどんなメッセージを届けたいと思いますか? とにかく「大丈夫だから」ってことかな。僕としてはもう残りの人生、きれいに生きたいんですよね。これ以上汚れたくないし、濁りたくない。そんなの理想論だって言われるかもしれないですけど、それでも大丈夫っていうことを、最終的には皆さんにも届けられたらいいなと思います。 取材・文:野上瑠美子 撮影:源賀津己 ヘアメイク:赤間賢次郎(KiKi inc.) スタイリング:勝見宜人(Koa Hole inc.) 衣裳クレジット:ジャケット・シャツ・パンツ・シューズ/すべてGALAABEND <東京公演情報> HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】 公演期間:2024年11月26日(火) ~ 2024年12月8日(日) 会場:PARCO劇場