「空気を読む」風土がむしばむ公益通報
声を挙げられる社会の実現へ
例えば、通報者への不利益な取り扱いに対しては行政措置をとれるようにする必要があろう。通報者が組織から不当な扱いを受けても、救済を求めるには現在は裁判に訴えるしか道がない。法を所管する消費者庁の法執行体制を整備することも喫緊の課題である。 また、通報内容に関連する資料の閲覧・持出行為に関しての免責を法律に明記しなければならない。組織外部の行政機関や報道機関などへの公益通報については、真実性あるいは真実相当性があることが、通報者を保護する要件と定められている。通報対象の事案を裏付ける具体的事実を資料などで示すことができなければ、通報自体の信ぴょう性が減じるだけでなく、通報を受けた報道機関などの調査着手にも困難が生じかねない。 内部公益通報体制の整備義務に違反した組織に対する罰則規定も欠かせない。体制整備の責任は本来組織にある以上、通報の対応業務従事者にのみ、刑事罰の伴う守秘義務を課すのでは不十分である。公益通報者保護法を当事者の意思とは関係なく適用される「強行法規」とすることで、通報者の保護を組織に徹底させるとともに、通報体制整備の適切な履行を実質的に担保することができる。 不正や違法行為を正す端緒である内部告発や公益通報は、われわれの安全・安心な生活に大きく寄与している。日本の社会全体として公益通報者保護法の意義や役割を改めて認識するとともに、声を挙げる公益通報者に不当な不利益を負わせない社会をつくっていかなければならない。
【Profile】
日野 勝吾 淑徳大学副学長・同コミュニティ政策学部教授。専門は労働法、消費者法。1979年生まれ。2011年東洋大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。法務博士(専門職)。内閣府、消費者庁、独立行政法人国民生活センターなどを経て、現職。主な著書は、『よくわかる働き方改革 人事労務はこう変わる』(ぎょうせい、2017年)、『企業不祥事と公益通報者保護』(有信堂高文社、2020年)、『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務』(ぎょうせい、2022年)など。