「還暦過ぎてのシリコンバスト、感無量」「乳輪はタトゥーで…」62歳の作家が乳がん手術後に選んだ乳房再建の道
テレビ通販の「あと10分だけ」のような一押しに…
迷っている私の前で、「もし再建するんでしたら、形成外科の先生との面談がありますから」と先生が日程表を広げる。 再建は乳腺外科ではなく形成外科の領域だったのだ。きらきらしたピンクのバラの広告と美魔女女医の姿が頭に浮かぶ。一気に腰が引ける。 「手術日が近いですから、もし再建されるならすぐに形成外科の先生の予定を押さえますが」 先生の手はすでに受話器にかかっている。それが最後の一押しとなった。 よくあるテレビ通販の「あと10分だけです、あと10分のうちにお電話をいただければこのお値段!」の、あの心理だ。 「はいっ、お願いします。再建します」 最敬礼して答えていた。 手術日が決まると、検査とその結果を聞くために頻繁に病院に通うことになった。 初日は、医師や看護師との面談の他に、体重を量ったり、血液や尿の検査など、こちらの体が手術に耐えられるかどうかを判断するための健康診断のようなものがあった。翌週からはマンモグラフィー、エコーなどおなじみのものに加え、MRIなど本格的な検査が始まる。
手術に向けて検査の日々
MRI検査は強い磁石と電磁波を使って体内の状態を輪切りにして撮影する。仰向けになった状態で、かまぼこ形の棺桶のような空間にゆっくり吞み込まれていくもので、以前受けた脳ドックで経験済みだ。 「ああ、ちょっと音がうるさいあれね」と気楽に検査室に。 何気なく検査台を見て、えっ? 肩から下あたり背中部分が通常の台ではなく、真ん中で仕切られた四角い枠だけになっている。 「そこにうつぶせに寝てください」 「はあ?」 エステのように? 真ん中で二分された四角い枠は、うつぶせに寝て両乳房をはめ込むためのものだった。そこからぶらん、と宙に垂れ下がった乳房の内部の画像を撮影するらしい。想定外であると同時に、何ともシュールな図だ。 脳ドックのときのMRI検査では、ヘッドホンから音楽が流れてきて、ギー、ガチャガチャ、カコンカコンというあの音を和らげてくれたが、こちらはそんな余計なことはしない。耳栓を渡され自分で耳に突っ込む。 造影剤を点滴されて、まくらに額を押し付けしずしずと下半身から機械の中に滑り込んでいく。むき出しになった乳房がすかすかと薄ら寒かった。
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