映画『ザ・バイクライダーズ』はアウトローなバイク乗り集団の栄枯盛衰を儚く美しく描く──監督ジェフ・ニコルズのインタビュー
オースティン・バトラーが喧嘩っ早い無口なバイク乗りを演じた『ザ・バイクライダーズ』は、ダニー・ライオンの写真集「The Bikeriders」に登場する実在したモーターサイクルクラブ”アウトローズ”にインスパイアされた作品だ。純粋にバイクを愛していた彼らが抱いていた「生きてこそ生きる」という倫理が変化し、犯罪集団へと変貌していく過程を映し出した美しくも悲しい作品に込めた想いを、監督に尋ねた。 【写真を見る】登場人物は、それぞれ異なるバイカー・ベストを身につけている
写真集「The Bikeriders」からインスパイアされた
1960年代のシカゴ。世間からはみ出たバイクが好きな男たちは、自分たちのクラブを作り、仲間同士でつるんでいた。そのグループの中に入り込み、彼らの日常をとらえたのが、写真家ダニー・ライオン。その写真集を見て以来、ジェフ・ニコルズ監督(『テイク・シェルター』『MUD マッド』)は、いつかこれを映画にしたいと願い続けてきた。 そして完成した映画『ザ・バイクライダーズ」は、失われたアメリカの歴史の一部を描く、ノスタルジアにあふれる美しい作品。変わりゆく時代を背景に、主人公ベニー(オースティン・バトラー)、妻キャシー(ジョディ・カマー)、クラブのリーダー、ジョニー(トム・ハーディ)の人間関係を追っていく。この映画にかけた想いを、ニコルズ監督に聞いた。 ■1960年代を体感できる ──とても特別なフィーリングと優しさのある映画です。独特の手触りがあるような。ダニー・ライオンの写真集を見て、どこに惹かれたのですか? 今、あなたが言ってくれたようなことを、僕はダニー・ライオンの写真集から感じたんです。『ザ・バイクライダーズ』は、僕がこれまでに作った映画とかなり違います。これは、ただ映画のなかの登場人物とのんびり時間を過ごす映画。観客に、あの時代、あの場所を感じてもらって、最終的に、もうこれは存在しないのだと感じてもらうのが目的です。それは悲しくもあり、美しくもあります。 ダニー・ライオンの写真集には文章も添えられており、それを通じて僕は彼らの声を聞くこともできました。彼らは、あの時そこにいたリアルな人たち。世の中で自分の居場所を見つけようとしていた人たちです。僕は、この映画で彼らが存在していたことを知らしめたかったのです。 ──バイクに乗った男たちの集団というと怖い気がしますが、ここに出てくるのは、妻や家族がいて、近づきやすい人たちです。 僕にとって、そこも大きな魅力でした。70年代になると攻撃的で暴力的になりますが、映画が描くのは、その前の時代。50年代の純粋さがまだ残っている頃です。彼らはバイクが好きな仲間と時間を過ごすのを楽しんでいるだけで、自分たちを定義していない。ルールもありません。 しかし、そのうちルールができ、それがもともとあった大事なものを破壊してしまうのです。それは、文化の中で何度もおきてた事象です。社会の枠にそぐわないものが外に出て、そこに人が集まり、新しい何かができる。だけど、なぜだかそこにガードレールを作る動きが現れ、特別だったものが、世の中にある凡庸なもののひとつになってしまう。残念ながら、それは世のパターンなのです。 ■トム・ハーディの存在感 ──ダニー・ライオンは、撮影対象の人々にインタビューもしました。その音声も参考にされたそうですが、ストーリーはどのように組み立てていったのでしょうか? まず、他愛のない集まりが、時間が経つ中で次第に暴力的な文化へと変わっていくという大きな筋書きがありました。どんなことが起きていくのかを考える中で、僕は、ダニーによる録音にあった、キャシーがベニーへの愛を語る言葉にインスピレーションを受けました。映画ではジョディ・カマーがキャシーを演じていますが、彼女の台詞の多くは、録音からそのまま取ったものです。 ですが、それだけでは足りないと思い、トム・ハーディが演じるジョニーを入れることにしました。ジョニーは、このクラブのリーダー。キャシーとは違う意味で、彼はベニーを必要としています。しかし、肝心のベニーは、そのどちらも欲していません。愛する家庭におさまるのは嫌だし、かと言ってクラブのリーダーにもなりたくない。大きな流れの中で、僕はそんな小さな悲劇も語っていきたいと思ったのです。 ──ノーマン・リーダスのようにバイク好きで有名な俳優も出演していますが、キャストは撮影前にトレーニングを受けたのでしょうか? オースティン・バトラーは一生懸命練習してくれましたし、トム・ハーディはもともとバイクに乗り慣れていました。ほかにもバイクが得意だった人はいましたが、全員トレーニングを受けています。60年代のバイクは今と違うので。ブレーキやクラッチの位置がばらばらだったんです。統一されたのは70年代半ば。この映画では、60年代当時のバイクを使っています。 それらのバイクは安全性も今とは違いますし、彼らはヘルメットをつけずに乗りました。それでスピードを出すのです。幸いにも、私たちはなんとか無事にやり遂げることができました。 ■ファッション映画でもある ──彼らはファッションにもこだわりがあったようですね。 パンクロック好きな若者に通じるセンスがあります。一見するとホームレスみたいな服装ですが、細かいところに徹底したこだわりがあるのです。ブーツや、デニム、ベルトから、ワッペンまで。着古されてくたくたではありますが、すべて彼らが自分でしっかり選んだものです。 それは、より大きなものの象徴でもあります。世間一般からはみ出ていると感じた人は、自分のアイデンティティを探します。服装や髪型、タトゥーなどは、その表現手段。もちろんバイクもそう。店でハーレー・ダビッドソンを買うことはできても、それだけではほかの皆と同じです。自分で組み立てたバイクは、世の中にひとつだけなのです。カスタムしたライダースジャケットも、誰も持っていない。髪型も、誰もしていない。それが、彼らのアイデンティティであり、主張なのです。 『ザ・バイクライダーズ』 2024年11月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開 © 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved. 取材と文・猿渡由紀 編集・遠藤加奈(GQ)