「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
日本におけるオープンイノベーションの現在と有効的なテクノロジー活用
宮田:SPORTS INNOVATION STUDIOは前身の取り組みも含めると今年で5回目となりますが、長官目線でよくなっている部分や課題などを教えていただけますか? 室伏:年々大きな取り組みになっていると思います。チャレンジする事業者が増えたり、競技団体としてもより大きなチャレンジが増えてきた印象です。 宮田:スクラムベンチャーズとしてスポーツ界への投資を始めたのが2017年なのですが、2017年はNFLがテクノロジーを使ったスタジアムを作ると大々的に発表を行った年です。われわれはこの発表を見て、スポーツに参入する意思決定をしました。ちょうど7年程経過したわけですが、まさに近年はスポーツとテクノロジーの融合が増えてきている印象で、日本でもイノベーションの事例は増えてきていると実感しています。 室伏:今回、エアレースXがコンテスト部門のパイオニア賞を受賞しました。エアレースは飛行機の実機が必要なので、実際に参加するハードルが高いのですが、エアレースXのようにシミュレーターを使ってレースを行えば、競技人口が増える可能性もありますし、実機のエアレースのレーサーになる方も出てくるかもしれません。スポーツにテクノロジーがどんどん入ってくることは面白いですよね。 宮田:シミュレーターやVRを使ったトレーニングなどさまざまな取り組みがありますが、「このようなテクノロジーがほしい」と思われるものはありますか? 室伏:私は一応サイエンティストですので、自分でセンサーを作り、そのセンサーを用いて加速度計や張力計を作った経験があります。テクノロジーの利用では、タブレットをはじめとしたモニターなどで映像やデータを映し出すイメージがありますが、音を使ったアプローチが出てきてもいいですよね。例えば、音にフィードバックをかけて物理的な情報を教えるテクノロジーなど、コーチの助言に頼らない感覚的に学べる方法が出てくれば、多様な人に多様な指導ができるようになってくると考えています。 スポーツをより感覚的に学ぶことができるようになれば、上達スピードが速くなる可能性も高まりますし、スポーツを楽しめる方がもっと増えるのではないかと思います。この領域はテクノロジーの進化によって、大きなゲームチェンジが起こる日も遠くないと確信しています。 宮田:先ほども話題に挙がりましたが、日本では部活の先にプロスポーツがあったり、教育がベースにあるからこそアメリカのような大きなチャレンジが出てこない印象もあります。室伏長官は、全体的な日本スポーツ界に対してどのような課題感を抱いていますか? 室伏:エンジニアの方が何かを作ってそれをスポーツの現場が取り入れることは比較的簡単ですし、それも重要です。一方で、現場のニーズから作ったものも大切です。現場のニーズより先に、先進的なデバイスやサービスが完成し、現場では使われないといった事象が、スポーツのみならず日本で起こっていることです。なので、スポーツの現場で活動する人間とエンジニアをはじめとしたイノベーション人材がラボのような形で交流したり、一緒に開発することが、日本のスポーツにイノベーションを増やしていくためには重要ではないかと考えております。