鳥貴族が新時代の「居酒屋王」に!? 苦戦するライバルと差がついた決定的な理由
居酒屋王にふさわしいブレない方針
鳥貴族は2020年の決算説明会の時点において、コロナ対策のみならず、「中長期的な構想と取組」を発表。(1)マーケティング、商品開発の強化、(2)不採算店舗を整理しつつ、新しい国内未出店地域への拡大、(3)新業態開発(後の「TORIKI BURGER」など)(4)海外進出、を明記してアフターコロナにおける展開についても成長戦略を示した。TORIKI BURGERのようにうまくいっていない事業もあるが、鳥貴族はおおむね、今もこの計画に沿って国内エリアを拡大しながら、海外への進出を本格化しつつある。 2020年において、外食事業者でここまでブレない計画を公表できている企業は、他にほとんどなかったであろう。多くの外食企業のIRにおける開示内容が乏しくなり、説明が不十分となる中、ここまで腹の据わった方針発表ができた鳥貴族は、正に「“居酒屋王”になる!」にふさわしい度量があったといえる。 鳥貴族は2024年7月期決算発表において、2027年7月期に向けた新たな中期経営計画を発表。国内出店エリアの拡大と海外進出強化によって、売上高600億円、営業利益60億円(利益率10%)を達成すると打ち出した。 これまでの経営を踏まえれば、こうした計画についても高い確率で達成するだろうが、それ以上に、鳥貴族の今後の成長には、歴史あるFCのやきとり大吉が大きく寄与するのではないかと考えている。 鳥貴族は、店長職以上の従業員は「鳥貴族」の加盟店オーナーとして独立が可能な独立支援制度を設置。独立に当たっての資金調達や、経営指導などのバックアップを制度として整備している。こうした独立支援制度と高齢化した大吉オーナーたちの事業承継が相まって、その実効性を高め、モチベーションのさらなる向上につながるからだ。
売上高600億円のカギを握る「やきとり大吉」
外食産業は昔から労働環境が厳しく、人材の定着率は決して高くない。この状況は今でもほとんど変わらない。その上、近時の人手不足から、今後はさらに定着率は悪くなる環境にある。 外食産業に長い期間残ってくれる人材は昔から、「独立して自分の店を持つ」という目標がある人が多かったはずだ。鳥貴族グループでは、独立支援による人材の確保を目標の1つとしており、数年前から独立のための小規模店舗フォーマットを整備しつつあった。 そこにやきとり大吉の約500のFC店舗が加わり、その多くが順次、事業承継を必要としているという。これこそ、鳥貴族社員にとって独立の多様な選択肢であり、グループ内で独立した経営者として成長していくことが可能になる。優秀な人材の流出を減らし、グループ内経営者として共栄していこうという発想自体が、人手不足の時代の人材確保に大きく寄与することは間違いない。新たな居酒屋王、鳥貴族の成長は、当面持続すると考えていいのではないだろうか。 著者プロフィール 中井彰人(なかい あきひと) メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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