「ハリー・ポッターの力を背負って演じる」吉沢悠の言葉に見た原作、舞台、俳優の幸せな関係
<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム> 小説と、それを元に作られた舞台との間に築かれた幸せな関係を感じ、取材していて心癒やされた。そんな気持ちにさせてくれたのは、吉沢悠(46)の真っすぐで誠実な言葉だった。 東京・赤坂ACTシアターで上演中の舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」でハリー・ポッターを演じる吉沢は1日、都内で開かれた「ハリー・ポッターと賢者の石」(静山社)25周年出版記念パーティーに出席した。この日は、シリーズの翻訳を手がけて日本に持ち込んだ、静山社の松岡佑子氏が来日。吉沢のほかロン・ウィーズリー役のひょっこりはん(37)ハリーの妻ジニー・ポッター役の大沢あかね(39)マクゴナガル校長役の榊原郁恵(65)が祝福に駆けつけ、同氏と130人のファンを前に原作の名場面を生朗読した。 吉沢はパーティーの最後に「読んでも情景が浮かんでくるというのが、原作のすてきな部分。多くの皆さんに愛されている理由は、作品の愛の力だと改めて感じました。明日以降も、しっかり背負ってハリーを演じたい」と意気込んだ。そして松尾氏も「25年前、私は(原作者の)J・K・ローリングの言葉を解釈し、私の言葉に置き換え、私の物語を作り出した。舞台は役者さんのもので、どう解釈するかで違った解釈が生まれる。根本は本です。本に立ち返ってください」と訴えた。 パーティー終了後に行われた囲み取材で、吉沢にパーティーから何を持ち帰り、舞台に生かしたいか? と質問が出た。吉沢は平方元基(39)とダブルキャストで7月から「ハリー・ポッターと呪いの子」に主演しており、この日、パーティーに出席した4人が出演する回は、4日に上演されることを受けての質問だった。 吉沢は「2、3週間前くらいに、7月に僕がデビューして70回くらい公演数がたったんですよ。何回かやっていると、自分の中でも、当たり前になってきちゃうところがあって」と、公演数を重ねた中で生じた、慣れがあったと吐露。「感覚的にこういう感じだよねと(演技を)先読みしちゃう感じがある。これは、ちょっと違うなということで、自分自身、もう1回。台本を開いた」と再び、初心に立ち返ったと明かした。その上で、松岡氏が「本(原作)に立ち返ってください」と語ったことを踏まえ「おっしゃった言葉が、すごくドンッと突き刺さった。自分が台本にもう1回、戻った作業って、やっぱり必要だったんだなと、あの瞬間、思った」と強調した。 朗読したことで「ハリー・ポッターの世界を違う形で体験した」という。「郁恵さんの朗読の時に、感極まって目頭を押さえる方がいらっしゃるのを見た。普段、芝居している時に、しっかりお客さんは見られない。こういう方々が、もしかしたら劇場にもいらっしゃると考えると、自分が本に立ち戻って、大人になったハリー・ポッターを再構築し直して、4日以降の芝居に臨んでいきたい」と力を込めた。 主演舞台の原作の周年イベントに出て、原作の持つ力、意味を感じたと語る…そこまでは、ある話だろう。それが、ロングラン公演が続く中、自らがある意味、マンネリズムに陥りかけていたと吐露し、イベントから得た原作の持つエネルギー、作品を愛するファンの熱量で役を再構築することまで口にした。原作と、舞台と、俳優の、この上ない幸せな関係性を目の当たりにして、記者にできることは、うなずくことだけだった。【村上幸将】