労働者の心身をむしばむパワハラ ── どう対処すべきか、笹山尚人弁護士に聞く
見過すごすことはパワハラへの加担
─── 過去のパワハラにいまなお苦しんでいる人もいます。 笹山 パワハラは社会から人間を切り離すものであり、そこからの回復も必要です。放っておいてはダメ。社会的に認められることが、なによりもパワハラ被害者の救済になります。最近、インターネットでパワハラ被害者を叩くような風潮がありますが、そういうことをする人はうさばらしをしているにすぎません。 ─── パワハラをしている側に認識をさせるには? 笹山 裁判か、会社のコンプライアンス担当部署に訴えるか、争議を行うかという選択肢があります。無理やりわからせるしかなく、パワハラをできるポジションから動かしてもらうよう、働きかけるしかないです。 ─── 労働組合が冷たい、という声もありますが……。 笹山 会社の組合が冷たい場合は外部の組合や弁護士を頼るしかないです。不当労働行為が行われた場合には逐一メモを取り、その場で抗議していたというかつての少数派組合の手法を応用することは可能です。 ─── 同僚がパワハラをされているのを見たらどうすればいいですか? 笹山 無視は消極的なパワハラへの加担です。この場合は、何かすべきです。 ─── パワハラが職場のコミュニケーションの題材となっているような場合もあります。 笹山 見える範囲で味方がいないということですから、抜け出すことを考えるしかないです。退職や休職を考えましょう。精神を病んで人生を失うよりはマシです。情勢分析ができるように、被害者は組合や弁護士にコンタクトできるようにしてください。 ─── パワハラに強い弁護士の見分け方は? 笹山 講演会では「日本労働弁護団に相談して」と言っています。
脱落させる中で選抜するというシステム
─── 会社の側がパワハラのない職場づくりをするにはどうすればいいですか? 笹山 複雑なことはありません。昔とは時代が変わっていることを意識して、いまの人が人間として尊重されることとは何かを考え、実行するしかないです。労働者それぞれが求めるものを考えることが必要です。ハラスメント対策の研修も行うべきです。 最近、新卒で入社し試用期間を終えた人のパワハラ相談が増えています。大企業に多いです。やめさせることを前提として採用しているのではないでしょうか。脱落させる中で選抜するというシステムになっているように思えます。採用の際の選抜システムが機能していないという問題もありますが、人間に対する扱いが荒いのではないでしょうか。いまの日本の資本主義社会のいびつさがよく現れています。 ---------- 笹山尚人 北海道札幌市生まれ。中央大学法学部卒。2000年に弁護士登録。東京法律事務所に在籍。所属は第二東京弁護士会。著書に『それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか』(光文社新書)『パワハラに負けない!――労働安全衛生法指南』(岩波ジュニア新書)などがある。