最高の舞台で「新庄野球」の本質が見える

　同じことは新庄剛志監督にも言える。「ビッグボス」就任で話題騒然となって以来、新庄采配はSNSで常に論争を巻き起こした。僕も1年目は目立ちすぎだと思っていた。奇策を多用し、選手が振り回されていた。うまく順応できる選手はいいけれど、不器用な子は自分のペースを見失っていた。これを続けていてはチームがバラバラになるんじゃないかと心配した。栗山監督1年目の福良淳一ヘッドコーチ。彼のような参謀格がほしいと思った。 　が、バラバラどころか明らかにチームは成長している。これは球団サイドのチーム編成の妙であり、コーチやスタッフのバックアップであり、何よりも新庄監督自身の人間力に負うところだ。モチベーターとしての能力は傑出している。選手を見る目も確かなものだ。個々の采配に疑問を呈してきたSNSの声も、新庄ファイターズ3年目の成長は否定できない。 　ただポストシーズンの重圧のなか「選手はこれまで見せたことのない姿を見せる」ならば、ポストシーズンの監督もまたそこで本当の姿を見せる。モチベーターとしての力量はわかった。勝負師としてはどうなんだ。育てるのでなく、勝つための采配。短期決戦に向ける戦略・戦術。相手打線の「主砲」をどう殺すか。リリーフをどう再整備し、勝ち切る道筋をつくるか。キーマンは誰か。秘密兵器は誰か。 　僕の言ってるのはつまり「まだ見たことのない新庄剛志」だ。勝負師の姿が見たい。「失敗してもいいから積極的に走る」じゃない。「失敗したら終わりの場面で勝負させる」監督像だ。そのため自分のなかに培ってきた「野球の引き出し」だ。ファン冥利ではないか。最高の舞台で「新庄野球」の本質が見られる。ドラマ以上のドラマが見られる。 ※既にリップサービスで「完全燃焼させたら日本一退任」＆「悔しかったら来季続投」を口にしている新庄監督だが、こないだスポーツライターの知人と「大谷翔平のワールドシリーズ第7戦登板→優勝」と「新庄ファイターズ日本一胴上げ→退任」は、万に一つの可能性（？）だけど、「やっちゃいそうでコワいな」と話したばかり。 えのきどいちろう