米『ハリウッド・リポーター』の批評家が選ぶ、2024年上半期の映画10本 ― 濱口竜介監督『悪は存在しない』ほか
6.『僕はキャプテン』
強烈ながらも、希望にあふれたイタリアのマッテオ・ガローネ監督作。主人公のセネガル人青年(新人俳優セイドゥ・サールの演技が素晴らしい)が故郷を離れ、ヨーロッパへと向かう姿を描く。 主人公の純真さを焼き尽くす冒険には、吐き気を催すような恐怖の瞬間が散りばめられているが、同時にうっとりするような美しさと優雅さも備えている。(フェルペリン)
7.『I Saw the TV Glow』
気鋭俳優ジャスティス・スミスが、クールな年上の女の子(ブリジット・ランディ=ペイン)との友情と、SFテレビ番組に安らぎを見出す孤独なティーンエイジャーを演じている。グレッグ・アラキの初期作や『ドニー・ダーコ』を彷彿とさせる作風で、思春期の苦悩をテーマにしたドラマ作品。 現実世界で居場所を感じられないときに逃げ込む場所、そして空想にも限界があるという残酷な事実について描いている。(ジョーデイン・サールズ)
8.『パワー: 警察権力の本質を問う』
現代アメリカ警察による暴力の起源とその意味を掘り下げる、ヤンス・フォードの痛烈なNetflixドキュメンタリー。アーカイブ映像、作家や学者へのインタビュー、モンタージュなどを駆使して、“奉仕し、守る”と主張する組織を徹底検証している。 その結果、警察権力をほぼ絶対的なものとして定義する政府の一連の選択によって進行した腐敗が織りなすタペストリーが完成した。(サールズ)
9.『地上の詩』
古典ペルシャ詩の押韻の複雑さに触発された共同監督、アリ・アスガリとアリレザ・カタミは、簡潔かつエレガントな現代的作品を作り上げた。バラバラのエピソードを積み重ねながら、官僚や権力者の説得を試みるテヘランの人々を追う。 主人公たちが直面する状況はイラン特有のものだが、エスカレートしていく狂気は普遍的なものだ。この映画は、暴君的な制約の不条理さに対する悲しみと憤りで脈打っている。(シェリ・リンデン)
10.『Wildcat』
イーサン・ホークが監督を務めた本作は、作家フラナリー・オコナーを描いた作品。視覚的な優雅さ、オコナーの人生と著書の間を行き来する刺激的な飛躍、そしてマヤ・ホークとローラ・リニーの遊び心のある演技の激しさによって傑出している。ニュアンス、ディテール、創造力に富んだ、稀に見る素晴らしい文学映画だ。(リンデン) ※初出は、米『ハリウッド・リポーター』(6月19日号)。本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。