集団走する神奈川大の選手たち（カメラ・岡野　将大）

　全日本大学駅伝（１１月３日）の関東選考会が６月２３日、相模原ギオンスタジアムで行われ、上位７校が本戦出場権を獲得した。トップ通過の東海大や５位で初出場を決めた立大などが注目される中で、神奈川大は７位と奮闘。持ちタイム（選考会参加申し込み記録）１７番手から１０校の“ゴボウ抜き”で２年ぶり１９回目の本戦出場となった。３５年間、チームを指導した大後栄治前監督（５９）が１月の第１００回箱根駅伝を最後に勇退し、今季から中野剛監督（５１）が指揮。下馬評を覆した神奈川大の変革に迫った。 　ただの１万メートルレースではない。見えないタスキを胸にかけて走る。全日本大学駅伝関東選考会は、１万メートル公認記録の８人合計記録の上位２０校が参加。１万メートルを各校２人ずつ４組で競い、出場した８人の合計タイムで７枠の本戦出場権を争う。６月下旬、高温多湿のタフな条件で失敗はできない。 　「速さ」より「強さ」が求められる選考会で、持ちタイムが１７番目だった神奈川大は７位通過。持ちタイムで１０校の“ゴボウ抜き”は、１８番手から５位に浮上して初出場を決めた立大に次ぐジャンプアップだ。第１組で首位と好スタート。第３組終了時点で圏外の８位に後退したが、最終組で７位に再浮上し、伊勢路切符を勝ち取った。 　今季からチームを率いる中野監督は「今年の箱根駅伝で２１位に終わった後、選手は自分たちの弱さを受け入れた。選手が納得した上で練習量を増やしました。それが結果に結びついた」と実感を込めて話した。出場メンバーから外れた主将の飯塚厚（４年）は「正直、自分たちも驚いた。チームの士気は一気に高まっています」と満面の笑みだ。 　変革の時を迎えた。８９年のコーチ就任から、昨季まで３５年間にわたって指導してきた大後前監督が勇退。小林篤貴（現ＮＴＮ）ら強力な世代も今春に卒業した。「１学年上の先輩たちは強かった。一方、今の４年生世代で箱根を走った選手はひとりもいない。『弱さを受け入れよう』という監督の言葉はその通りと思いました」と飯塚。朝練習は昨季まで各自で走ることが多かったが、今季は週に数回、集団で２２キロを走り込み土台を作っている。「午後の各自練習でも全員の練習量が増えた」と主将は明かした。 　今季のチーム目標は「箱根駅伝出場」。具体的な順位は定めていない。飯塚は「足元を見よう、ということ。目標実現のために全日本のことはいったん意識から消します」。全日本（１１月３日）から半月前、１０月１９日の箱根予選会に焦点を合わせる。前回、全日本に出場した２２年は選考会でトップ通過も箱根予選会は体調不良者もあり１１位で本戦出場を逃した。「予選会直前に全日本の区間配置などを話題にする選手がいました。先輩の批判をするわけではありません。先輩の失敗を後輩の僕たちが生かさなければいけない」と飯塚は冷静に語る。 　指揮官も表情を引き締める。「結果は自信になる。ただ、過信にならないようにしたい。準備で他校を上回っていくしかない。夏合宿が大事になる」。関東の大学駅伝界には「夏を制する者が箱根を制する」という格言がある。神奈川大は、地に足をつけて夏合宿に突入する。（竹内　達朗） 　〇…コーチ、監督として神奈川大を３５年指導し、２度の箱根優勝、３度の全日本優勝に導いた大後前監督は部長兼総監督として陰で支えている。「戦力的に厳しい状況でしたが、大きなミスなく頑張ってくれました。中野監督の初陣でもあったので、通過できて本当に良かった」とたたえた。 　◆神奈川大　１９４８年創部。箱根駅伝には前身の横浜専門学校時代の１９３６年に初出場。通算５４回出場。９７年に初優勝し、９８年に連覇を果たした。同シーズン（９６、９７年度）には全日本大学駅伝も連覇し、黄金時代を築いた。全日本大学駅伝は２０１７年に３回目の優勝。出雲駅伝は最高２位（９７、０２年）。練習拠点は横浜市。タスキの色はプラウドブルー。主なＯＢは男子マラソン日本記録保持者の鈴木健吾（富士通）。 　◆全日本大学駅伝出場チーム　昨年大会で優勝した駒大をはじめ、青学大、国学院大、中大、城西大、創価大、大東大、東京国際大の上位８校はシード。関東からは選考会を通過した７校と合わせて計１５校が出場する。その他、北海道１校、東北１校、北信越１校、東海１校（皇学館大）、関西４校（関大、京産大、大経大、立命大）、中国四国１校、九州１校（鹿児島大）の計２５校とオープン参加の日本学連選抜（東海を除く全国７地区学連からの選抜）と東海学連選抜の計２７チームが本戦に臨む。