「読書はセクシー!?」イギリス人が日本文学にハマる理由と“正義”のありか【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■「さりげなさ」を愛するイギリス人
「Spectator」の記事を書いたジャーナリストで、日本文化にくわしいパトリックさんは、日本文学の魅力はその「さりげなさ」にあると語る。 「我々イギリス人の読者は、人種差別や性差別、気候変動といった政治的なものに関する強いメッセージを押しつけられることに、もう疲れてしまったんです。日本文学は社会的な要素を盛り込んではいるものの、ユーモアを交えてとても魅力的にさりげなく表現されている。銃でバーンと撃つような感じじゃない。さりげないことで、読者は自分で人生の謎を解き明かし、その意味を発見したような気分になるんです」 Netflixも“日本化”が進んでいて、大人気マンガ「ワンピース」の実写版や「きのう何食べた?」などの実写版ドラマが人気を集めている。また、ディズニープラスでは「SHOGUN」がエミー賞を総なめにした。ロンドンではスタジオジブリのアニメ作品が舞台で上演されて人気を博し、10月末には劇作家・野田秀樹さんの最新作も劇場に登場する。 パトリックさんは「1つ、不思議なことがあるんです」と続けた。日本文化は世界でこれほど人気を集めているのに、なぜか日本人だけが自国文化の魅力に気づいていないように見える、と言うのだ。「なぜだと思うか」と問うと、パトリックさんはちょっと考えたあと、こう言った。 「『金魚と水』の理論ではないでしょうか。金魚は水の中を泳いでいるが、それが何なのかわかっていない。日本人は自国の文化の中にどっぷりつかっていて、それに疑問を持たない。イギリス人は常に自己批判をくり返しているので、ダメなところにも、魅力にも気づきやすいんです」 魅力はさておき、ダメなところにも気づかない…さりげなく痛いところを突かれた気分になった。
■日本は創造性の“万華鏡”
もう少し聞いてみたい、と、最近、日本文化の魅力について解剖した「カレイドスコープ・ジャパン」(邦題「ニッポン万華鏡:文学を通して見る日本の姿」)を上梓したリチャード・ネイサンさんに話を聞いた。 ネイサンさんは言う。「日本の小説を読んでみればわかります。日本の文学はまるで万華鏡のように、さまざまな顔を見せる。 だから世界の誰が読んでも、文化の違いはあれど、何か響くものがあって、『わかる! そういう人を知っている』あるいは『これは僕のことだ』と感じるんです。誰にでもあてはまる普遍性がそこにある。普遍性を支えているのは、日本文学がもつ“多様性”です。日本はじつは多様性を擁した国だと私は思います」 ネイサンさんはさらに「日本文学は繊細なニュアンスや緻密な表現といった独特の魅力があり、この独自性こそが海外の多くの読者を惹きつけている」として、日本人が自国文化の魅力にもっと気づき、積極的に投資していくことが今後の日本のソフトパワーの飛躍のカギだ、と語った。