『ブギウギ』菊地凛子が放つ歌い手のオーラ りつ子を知る上で欠かせない戦時下の出来事
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第14週のタイトルは「戦争とうた」。年明け最初の第65話では、スズ子(趣里)、りつ子(菊地凛子)、羽鳥(草彅剛)の戦時中の様子が描かれた。 【写真】「音楽は自由だ」 上海で過ごす羽鳥(草彅剛)と李香蘭(昆夏美) 空襲に遭った東京で歌の持つ力を実感したスズ子は、慰問公演で富山を訪れる。その頃、りつ子は鹿児島にいた。海軍基地で会場を案内されたりつ子は、上官の横井(副島新五)に欧米風の衣装を見とがめられる。軍歌の「海行かば」「同期の桜」を歌えるかと問われ、「軍歌は性に合いません」と答えた。眉をしかめる横井を前に「私でお役に立てないようなら、帰ります」と踵を返した。 「士気を高揚させるための余興」。戦時下にあって芸術は戦争遂行に役立つことが求められた。日本国民であるスズ子やりつ子、羽鳥も義務を免れることはできず、それぞれの立場で務めを果たすことを強いられた。たとえ内心で戦争に疑問を持っていたり、音楽家としてのポリシーに反するとしてもだ。 帰ろうとするりつ子は、自分を見つめる少年たちに出会う。特攻隊の一員である彼らは、初めて生で目にするブルースの女王に興奮していた。特攻兵は命令が下されれば、すぐにでも出撃しなくてはならない。そのことを知らされたりつ子は、隊員の希望に応えて歌うことを承諾した。散っていく若い命に手向ける歌唱。自身の持つ歌の意味をりつ子は振り返らざるを得なかっただろう。
中断期間を挟んだ第64話、第65話で『ブギウギ』が戦争体験を取り上げる意義は大きく、朝ドラ『エール』に続いて、第二次世界大戦の教訓を風化させず、戦争が日本にもたらしたものを捉え直そうとする視点のあらわれと言える。りつ子のエピソードは歌手・淡谷のり子の実体験がベースにあるが、戦後、国民的歌手となったりつ子とスズ子を知る上で戦時下の出来事は避けることができない。りつ子役の菊地凛子は、1月3日に放送されたスペシャルドラマ『侵入者たちの晩餐』(日本テレビ系)のユーモアあふれる演技から一転して、時代と対峙する歌い手のオーラを放った。 滞在先の旅館でスズ子は静枝(曽我廼家いろは)と出会う。空襲の被災者で溢れかえる旅館に、女中の静枝が娘の幸(眞邊麦)を連れてきたのはわけがあった。どこか思いつめた様子の静枝は夫が戦死し、女手一つで幸を育てていた。スズ子の脳裏に六郎(黒崎煌代)の面影がよぎった。ぶしつけな質問を詫びるスズ子に、静枝は国のために命を捧げた夫は自分の誇りで悲しくないと返す。けれどもその表情は悲痛さを漂わせていた。 目を国外に転じると、上海にいた羽鳥は自由な音楽のビジョンを描いていた。「音楽が時世や場所に縛られるなんてバカげてる。音楽は自由だ。誰にも奪えないってことを僕たちが証明してみせよう」と羽鳥は意気込む。羽鳥が作曲した「夜来香幻想曲」は敵性音楽のシンフォニックジャズにブギのリズムを取り入れており、戦後の展開を先取りしていた。李香蘭(昆夏美)が歌う「夜来香」が新しい時代を予感させた。
石河コウヘイ