「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける、多すぎる「日本の病理」
---------- 2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 【写真】岩手県「奇跡の村」で住人が30年以上にわたって取り続けた「血圧記録」 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 ---------- 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する。
科学的データより教授の意見が優先される日本
和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります。 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした。