教祖の妻や“美人姉妹信者”がワイドショーに…なぜオウムの“暴走”を止められなかったのか?「地下鉄サリン」事件から30年後にみえた“教訓”
教祖の妻や“美人姉妹信者”を話題にしたワイドショー
坂本事件の後も、テレビはオウムをサブカルチャーの1つとしておもしろおかしくとりあげたり、麻原をすぐれた宗教者のように持ち上げて見せる番組もあった。ワイドショーで教祖の妻や“美人姉妹信者”を話題にし、バラエティ番組に教祖を出演させるなど、教団が無害で犯罪とは無縁な集団であるかのような印象を広めたのもテレビだ。人気の討論番組『朝まで生テレビ!』は、麻原以下幹部をそろって生出演させ、時間を費やして教団のPRを許した。この番組を見て、オウムに関心を持ち、入信した若者もいた。
政治や行政も無関心だった
そして、吉本隆明、山折哲雄、栗本慎一郎、島田裕巳、荒俣宏、山崎哲、ビートたけしの各氏など、錚錚(そうそう)たる知識人・文化人がオウムを擁護し、称賛した。中でも、若者に人気があった宗教学者の中沢新一氏は、坂本事件の後、自らオウムの「弁護人」を買って出て、「実際に麻原さんに会った印象でも、彼はウソをついている人じゃないと思った」などとかばった。チベット仏教の専門家でもある同氏が「狂気がなければ宗教じゃない」と麻原の言動や教団の行いを正当化した影響は小さいとは言えない。 一方で、学校や社会でのカルト問題に関する教育や情報提供は全く不十分だった。また、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に関しては、キリスト教関係者の支援があったが、仏教系カルトのオウムに対応できる宗教者は見当たらなかった。さらに、政治や行政もカルト問題については無関心だった。 社会の無知無関心につけこみ、教団はさらに勢力を拡大し、莫大な資金を集め、武装化に注ぎ込んだ。ここから教訓を学ぶならば、カルト問題についての調査・研究や、学校での教育、社会への情報提供に、もっと力を入れるべきではないか。 ◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。
江川 紹子/ノンフィクション出版
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